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第23話 談笑

閲覧ありがとうございます!

 

 とある休日の午前中。国が保有する森で、点々と忍び笑いが発生する。


「ふ、ふ、ふ。レラ、君はとんでもない奴ですよ。まさか、ユージンの気持ちをそんな風に思っていただなんて!君の部屋にこっそり置いてあった寸法ピッタリの服や、アルトリウス様の催しに着ていった法外な価格のドレスは誰からの贈り物だと思っていたんですか?」


 草木が伸び伸びと生い茂った森は、アルトリウスが魔法の鍛錬で使っている場所だ。


「ちょっと、ハンス。もうやめてよ。恥ずかしいから」

「レラが気にすることは無いわよ。恥ずかしいのはユージンかしら。どんな悪人でも、どんな性別でも誰かを好きになることに、わたくしは意義を唱えるつもりは全くありませんけれど。でも、……ふっ」


 ハンスとクラリス様が笑い、ユージンが顔を隠して明後日の方向を向いている。

 アルトリウス様はまだむくれている様子だ。友達のユージンを私にとられて、嫌な気分にさせてしまったかもしれないと思うと冷や汗が流れたが、クラリス様が放っておくようにと言ったので様子を見ている。


 まさか、ユージンはミーシャを良く思っていなかっただなんて。あの屋敷でミーシャが来ると態度を豹変させていたから、真面目に優雅に振る舞っていたから、てっきり彼女には格好いい自分を見せたいのだと思い込んでいた。

 でも、ちょっと安心した。私からしたら怖いミーシャを彼が好きだったらば、私はどんな顔をして今後ユージンと話していいのか分からなかったから。

 私はもう彼女に屈したくはないし、拒絶することだって出来る。

 私の世界があの屋敷からより広い世界になったことで、絶対的だったミーシャの力が私を抑圧するすべてではないと気付いた。あぁ、この学校に来れて本当に良かった。


 ……だけど、一体誰が何も持ち得ない私を入学させてくれたんだろう?いいえ、私はもう知っている。

 幼い頃から私を支え続け、励まし続けてくれた――兄的存在の彼であると。


「レラ」


 隣を見上げると、アルトリウス様が微笑んでいた。

 透明な黒髪をさわさわと風に遊ばせ、木の実のように真っ赤な目をこちらに向けている。身長はハンスよりやや低いかも。

 かなり鍛えているようで、引き締まった筋肉を持っているのだろうことが伺える。


「そんなに見つめないで……欲しいな」

「あっ、すみません」


 やってしまった。前にハンスに注意されたことがあるというのに、あまつさえ王子様を不遜にも見続けるとは。

 心優しいアルトリウス様は気にかけていない様子……でもないかもしれない。逞しい腕で顔を隠してしまった。


「お気に触ったようで、申し訳ありません……。なにぶん、人に慣れていないもので……。ユージンとハンスくらいだけだったんです、私と話してくれる異性は。女性に至っては、今のところクラリス様とメリッサ先生しかいませんし……」


 話していたらちょっと悲しくなった。


「これからは、僕にも慣れて欲しい。君とは長い長~い仲になるからね」

「……恐れ多いです。いくら古代魔法が使える人間とは言え、アルトリウス様の身分からすると私は路傍の石に過ぎませんから」

「僕が身分で人を判断するとでも?実力ある人間であれば、僕は手に入れる。ハンスがいい例だ。彼は孤児院の出身だけれど僕の知るところまで名を馳せ、確固たる力を示していた。結果、僕は非常に優秀で信頼のおける臣下を手に入れることが出来たんだ」

「ふふ。アルトリウス様はハンスが大好きなんですね」

「僕は、君も大好きだよ。君は僕に『善い行い』を教えてくれた始めての人間なんだ」


 私とアルトリウス様の出会いは、この前聞いた。

 私がフォード家に売り捌かれる前、奴隷商人のもとで何年かを過ごしていた。

 そこで私はアルトリウス様と同じ牢にいたらしい。幸運にも逃亡の機が訪れた時、私は彼と共に宝石を空に放り投げた。彼は逃げおおせ、私はより厳しい生活を強いられた。

 靄がかかったようには思い出せる。けれど、辛い記憶に塗りつぶされている過去は思い出そうとしても手をすり抜けてしまう。

 でも、初めて笑った時の記憶が蘇る。

 ぼんやりした影の向こうに美しい誰かがいる。おそらく、それはアルトリウス様。

 暗い影にうっすらと光が射してくるみたいだ。


「私が投げた宝石というのは、どこにあるのですか?」

「常に身に着けている」


 と、彼は肩口で光る石を取り出した。大粒なそれを手に取った私は、すぐに理解する。

 触れた途端、まるで記憶の蓋が外れたみたいに思い出した。少しお節介でお喋りだった貴方を。


「これ、私ですね。……思い出しました。アルトリウス様とは暗い夜から次の日の曇天まで共にいましたね。やたら話しかけてくるお喋りな男の子だなと思っていたんです」

「そ、うか」

「私は1人で生きてきて、いつの間にか彼らに捕まっていました。だから、ちゃんとお喋り出来たのは貴方が初めてだったんです。あぁ、そうだったんですね。何で今まで忘れていたんでしょうか」

「君が思い出してくれて本当に嬉しいよ。あの日以来、僕はこの宝石から離れたことは無い。体の一部みたいなものさ」


 私が彼に宝石を手渡すと、あまりにも大切そうに宝石を胸元で抱え込むものだからつい焦って余計な事を言ってしまった。


「ア、アルトリウス様は宝石を生成できないのですか?古代魔法を使えるんですよね?」

「僕に流れる妖精の血はかなり薄いみたいだ。魔法の使い方が君と同じなだけで、存在しない物は生み出す力は無い。……非常に高度な宝石の生成なんてもっての外だよ」

「そ、うだったんですね……」

「君のような人材は正直、王子である僕よりも稀少だね」


 彼は謙遜するように笑う。王子様だというのに飾らない一面に驚いた。

 彼は私の何十倍も優れているというのに。森を見渡した彼は私に向かって提案する。


「ここに来た当初の目的。君の力を見せてくれないか? フォード家に侵入するにあたり、君の実力を知っておきたい。基本的にレラは着いてくれるだけでいい作戦を練る予定だが、不測の事態が起こった際には君の力を借りることもあるだろう」

「分かりました」

「まずは自然魔法をお願いするよ。森の中で申し訳ないが、ここで可能な限り広範囲の魔法を見せてくれ」


 アルトリウス様が私から距離を取り始めると、クラリス様、ハンス、ユージンまでもが手を止めて私に注目した。緊張して変な魔法を使ってしまいそう。


「で、では失礼します!」


 風、大地、そして緑。ありとあらゆる自然に思いを馳せた。

 皆から少しづつ力を貰おう。私に少しだけ力を分け与えてくれるかな。


 ――森がレラに応えた。


お読みいただきありがとうございました!

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