第22話 誤解
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「アルトリウス様が古代魔法を使えることも驚きなんだけど、ハンスは初めから気付いていたの? 私が古代魔法を使えるって」
「まぁ、なんとなくは。でも君はあまり見せたがろうとしなかったので。メリッサ先生から聞いて確信しましたよ。初めに言ったじゃないですか、君の容姿は人目を惹くって。傍で護衛するつもりでしたよ。俺もメリッサ先生と同じく、『護衛者』なんで。ユージン達の一族と一切関連しない外部の人間だから、雇われですけど」
「そっか……」
と、はたとレラは気が付いた。
「そういえばメリッサ先生が、学園の魔力測定器は古代魔法を炙りだすためって言っていたんです。アルトリウス様も初めはクラス10だったんですか?その時点で古代魔法が使えるって周知したんですか……?」
「僕はほら、この国の王子だからね。国を代表する王子が落ちこぼれなんて格好が付かないだろ? 大衆の面前で検査を行っていないんだ。けれど、僕は完全に古代魔法が使える訳ではなく、普通の魔法の方が得意だ。判定は今と変わらずクラス1だったね」
「流石です。アルトリウス様は俺よりもよっぽど腕が立ちますから」
「世辞はよしてくれ。ハンス、僕は君に総合力で負けていることは理解している。だから、君が僕を裏切るなんてことがあったら、困ってしまうね」
誓ってそんなことはあり得ません!と焦るハンスの肩を、真っ赤な扇子がピシャリと叩いた。
「ハンス。アルトリウスを無理に持ち上げなくても宜しくてよ。貴方の実力は、その王子が一番理解しているでしょう。過ぎた謙遜は不敬ですわ」
「俺は本当のことを……」
「改めて言うけれど、妄信は身を滅ぼしますわ」
「な……っ」
言いかけたハンスの言葉を、アルトリウスが遮った。
牽制を込めた眼差しで、赤い令嬢を見据えている。
「クラリス。僕の家臣を誑かさないでくれよ」
「あら、気に障ったかしら。わたくしも貴方の忠実な仲間ですわよ」
どうやらこの三人は仲が良さそうで悪いのかもしれない。
重くなった空気を察知したレラは、話を戻すことにした。あてにしていたユージンは、我関せずの顔でニコニコこちらを見ているだけだし。
「その! あの、ミーシャの宝石を鑑定するって具体的にはどうするんですか?フォード家が卸した商品を追うとかですかね?」
「フォード家の地下に侵入する」
「え」
「残念ながら、フォード家は近年、宝石をほとんど表の市場に売り捌いていないんだ。数年前にミーシャの両親が謎の病に伏してからは、彼女が当主だ。それ以来、フォード家が市場に顔を出すのは年に2,3回程度。おそらく地下に資産を隠したままだと思われる。ユージンがそこを掴んでくれたら事をスムーズに進められたかもしれないんだが……」
「ごめん。さりげなく地下の話を持ち出したら、ミーシャに怪しまれたんだ。一旦引いた方が良いと判断した」
さらりと小さな嘘を吐いたユージンを横目で見やりつつ、クラリスが美しい指先を顎に置き、さも困ったように口を開く。
「これでは、公式にフォード家に押しかけることは不可能ですわね。わたくし達は確たる証拠も文書も持ち合わせていないのですから。それともアルトリウス、貴方が捏造を?」
「いいや。これは僕個人の依頼であり隠密に事を済ませたい案件だ」
その言葉にひと際緊張を示したのは無論、ハンスだ。
「今回の作戦に、アルトリウス様自らがご参加なさるのですか?」
「あぁ。君達にばかり荒事を任せる訳には行かないだろう。今回の件は、妖精の栄誉を回復するためと言っても過言ではないからね。僕の私怨とも言える」
……何を言い出すことやら。貴方の愛するレラを無下に扱っていた憎き女だからでしょう?
彼女を見つけ出すのに10年もかかった癖に。
とは、流石のクラリスも言えなかった。触らぬ神に祟りなし。
ユージンが手を挙げ、申し出た。
「それじゃあ、僕は案内役を引き受けるよ。フォード家の内部を熟知しているから。地下室を除いてね」
「あぁ頼む。ユージン、僕、ハンスの3人であの家に潜り込もう。クラリスはミーシャや他の人間の動向を探ってくれ。併せてレラの護衛も頼む」
「仕方ないお方ね」
「あれ、今回は見返りを求めないのかい?もちろん、既に君が気に入りそうなものをいくつか用意しているよ」
「わたくしが欲に目が眩む卑しい女のように言わないでくださいまし。わたくしだって私情を挟むこともあってよ、貴方のように」
ややそっぽを向いたクラリスの言葉にあんぐりと顎を落としたハンスが、上ずった声で驚いた。
「えぇ!? クラリス嬢が、見返りも無しに動くなんて! さては、レラ。アルトリウス様のみならず、クラリス嬢までも誑かしましたね?」
「えっ」
「妖精の血は人間を魅了するんでしょうか? 今度メリッサ女史に聞いてみましょう」
「おだまりなさい」
ピシャリとハンスの脳天を扇子がしばいた。
クラリスは不服そうな顔を隠そうともせず、アルトリウスに抗議する。
「わたくしは、以前からミーシャ・フォードの言動に嫌気が差していましてよ。品性も知性も謙遜もない人間が己を頂点として他者を推し量る愚行を、わたくしは認めない。美しくないものは須らく絶えればいいのよ」
そこまで言い切り、彼女ははたと口を噤む。
パチンと扇子を畳み、深紅の髪の毛をクルクルといじりながら彼に当たる。
「わ、わたくしは自分の役目を果たさせていただきます。分かったらその軽い口を閉じなさい、ハンス」
「俺、まだ何も言ってないですけど。クラリス嬢にも熱血な部分があるんだと思って、度肝抜かれただけですけど」
「それを言うなと言っているのよ。悲しいわね、脳味噌までアルトリウスに侵されているようだわ」
「なっ、あのね、クラリス嬢。俺が優しいからって何でも言っていいと思ってませんか?いくらあなたがアルトリウス様に近しい人間であろうとね、主への愚弄は言い返させてもらいますよ」
ギャーギャーと言い合う2人を見たレラはクスリと笑った。
ハンスは飄々としている印象を受けるが、クラリスと言い合っている姿は年相応だ。
微笑むレラに、思いのほか近くにいたユージンが傍で呟いた。
「あの2人、なんだかんだ言って仲が良いんだよね」
「だね」
「……そういう君達も仲が良さそうだ」
アルトリウスがムスッとした顔でレラとユージンを見ていた。ユージンはふ、と笑みを零す。
「当然さ。僕らはあの屋敷で密かに逢瀬を重ねていたんだもの」
「ちょっと!誤解を招く表現は止めてよ。アルトリウス様、違うんです。孤独だった哀れな私をユージンは優しさから構ってくれていただけで、それでたまに――……」
「大丈夫さ、レラ。僕はこれから君と親睦を深めるから。大丈夫、君達の過去にどんなに深くて濃密な絆が結ばれていようとも僕は気にしていない」
「とかいいつつ、その宝石をお守りみたいに握りしめているじゃないか」
「――ユージン」
アルトリウスが赤い瞳を煌めかせた。聡い彼は引き際を見定め、両手を挙げてレラから一歩離れる。
「それでアルトリウス、話を戻すけどフォード家の侵入の計画はこれからだよね?」
「うん。今すぐとはいかない。頃合いを皆に相談するよ。今のところ、突入のタイミングは王国報謝祭を考えている」
「そっ、その話なんだけど」
と、レラが小さく手を挙げた。
「私も、一緒に行っていい……ですか?」
アルトリウスが眉を潜めた。それは不信ではなく、心配からくる表情だ。
「あそこは君にとっていい場所じゃない。辛い思いをする方が多いだろう」
「だからこそ、私は克服したいんです。実はミーシャに突き飛ばされたあの日、私は自然と彼女と闘う勇気が出たんです。それは着ていたドレスのおかげかもしれないし、周りがミーシャの味方ばかりじゃなかったからかもしれない。でも、もう私は彼女に怯えない。だって私は1人じゃないですから」
「……君が望むなら僕は反対しないよ。命に代えても守ると誓う」
「王子様がそんなことしちゃダメですよ。私だって、自分の身は自分で守れますから」
握りこぶしを作るレラの目に、よろよろとユージンの影が映り込んだ。
「……レラ。僕では君の力にはなれていなかったか?あの屋敷で僕は君の味方だったはずだ。ずっと傍にはいられないし、ミーシャの前では他人のフリを貫いたけど……」
「ち、違うよユージン。あなたは私に生きる理由をくれた。心が折れそうでしんどい時、ユージンとお話しする機会を心待ちにしていたんだよ。もしあなたが屋敷から去って、魔法学校の入学なんて奇跡が起きなかったら私は心を捨てていたかもしれない。……ユージンは私が一番つらい時に支えてくれた大切な大切な友達」
目を瞑り、大事そうに思い出を語るレラ。
その姿に一瞬言葉を失ったユージンは、次の瞬間子供のように唇を尖らせる。
「友達、ね。そう」
そんな彼の様子に気付かないレラは、人との関わりが薄い故の爆弾を投下する。
透明な瞳を心配そうに曇らせ、ギュッと手を握って言い放った。
「ねぇ、ユージンはミーシャが好きだったでしょう? 彼女の人生を狂わせてしまう作戦は……平気?」
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