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第21話 驚き

閲覧ありがとうございます!

 

 あれから、レラの世界が目まぐるしく変わった。

 住む場所が変わった。

 学ぶ環境が変わった。

 話す集団が変わった。

 突然の出来事に驚く間もなく、あれよあれよという間にレラの周囲は見知った顔ばかりになっていた。


「レラ。貴女、この技術をどこで?」


 クラス1の豪勢な教室で、大粒の宝石に陽光を反射させながら赤い令嬢が言った。

 情熱のバラを想起させる赤い宝は、美しいものに固執するクラリスの心をしっかりと魅了した。


「独学です。私はいつも1人でしたから」

「フォード家には何歳の頃に拾われたのかしら?……思い出したくない過去ならば無理にとは言わないわ」


 クラリスはアルトリウスから何万回も、レラとの馴れ初めを聞いていた。

 幼いアルトリウスが己の価値を理解しない阿呆だったせいで奴隷商人に攫われ、レラに出会ったこと。そして、その後国王にこっぴどく叱られたことも。

 レラが命を賭して彼を逃がし、無一文だった彼を慮り、透明な宝石を彼に放り投げたこと。

 ハンスは毎回神妙な面持ちで聞いていたが、3回目あたりからクラリスは右から左に流し聞いていた。


 その物語を語る彼の目が嫌いだったのだ。純粋に思い出を愛でる顔に隠れた、歪んだ感情が見え隠れしていたから。


「今から10年前です。恐らく……私が8歳の時。ミーシャの両親が、奴隷商人から私を買ったんです」

「8歳まで1人で生きていた、ということになりますけれど」

「はい。私、実は食べ物も作れるんです。住むところも、着るものも、話し相手も魔法で作っていました」

「無機物だけでなく、意志ある生き物も?メリッサ先生が卒倒しそうですわね」

「あはは……。実は、目を見開いたまま気絶しておりました。普段は普通の魔法しか披露してませんでしたから」


 レラが気まずそうに言う傍ら、ユージンが笑った。


「はは!あんなに驚くねぇさんを初めて見たよ。彼女が追い求め、周囲から否定され続けた理想が、前置きもなく目の前に現れたんだから。申し訳ないけど、ねぇさんにもう少しだけ付き合って欲しいな。悪い人じゃないんだよ」

「うん。もちろんだよ。メリッサ先生には物凄く助けてもらったし。誰かと雰囲気が似ていると思ったら、ユージンのお姉さんだったとはね」

「水を差すようですけれど、メリッサ先生が見たものとはなんですの?」


 これです、とレラが掌に小さな人型の人形を作りだした。その体は淡く発光し、蝶のような羽を羽ばたかせる。


「私、小さい頃は人間に出会うことが無かったのですが、なんとなく妖精の存在を知っていました。脳内のイメージで確実に生み出せるのはこの子です」


 つぶらな瞳でレラを見上げた妖精が、ぴょこぴょこと小さな手を振った。


「この子は喋らないのかしら」

「……すみません。今はもう、話さなくなりました。きっと私が妖精の存在を真に信じられなくなったからかもしれません。人間と会話するようになって、妖精への解像度が下がってしまったみたいです」

「ならば、人間は作れるの?」

「できませんでした。いたずらに生命を生み出すものではない、という倫理観が身についてしまったので体が拒絶するんです。そういう感情を持たない人ならば、出来たのかもしれない」


 クラリスに対して申し訳なさそうに眉を下げるが、ユージンがそれでいいという風に頷いた。


「古代魔法の使い手は善い人間ばかりだ。悪い思考回路の人間には宿らない力なのかもしれないね」

「あら残念。ユージンは、絶対に古代魔法は扱えませんわね」

「えっ、そうなんですか?」


 クラリスがニヒルに笑うと、レラがあわあわと焦る。ユージンはクラリスの言葉を否定するわけでも肯定するわけでもなく、ただ笑っていた。

 ――優雅なひと時を過ごしていた3人に、やや拗ねた声音が割り込んだ。


「随分と、仲が良さげだね。ユージンはこの学園の生徒ではないというのに」


 ムスッとした表情のアルトリウスがハンスを従えて入って来る。

 アルトリウスが持つ透き通る黒髪に見惚れていたレラと彼の視線が交わったが、一国の王子と目を合わせてしまったことに後ろめたさを感じた彼女は反射で目を逸らす。

 ハンスが場の空気を読んで彼女に話し掛けた。


「レラ、君に提案があります」

「提案?」

「ミーシャの家に隠された悪事の証拠を掴みましょう」

「……悪、事」

「はい。先ほどアルトリウス様と話したのですが、ユージンの報告からもフォード家はどうもきな臭い。いや、おそらく真っ黒でしょう。古代魔法で宝石を作らせ続け、君の一族の滅亡を招いた可能性が非常に高い。ミーシャの両親が病で床に伏しているのも、悪行による報いなのかもしれない。そこで、フォード家の取り扱う商品の数々をレラに鑑定してもらいます。古代魔法の痕跡を発見したら黒。そうでなくても叩けば何かでそうですけど」

「メリッサねぇさんは古代魔法の研究者だけれど、確かな専門家ではない。正確な鑑定が行えるのは、今のところ君しかいないんだ。どうか、フォード家の蛮行、そして彼らの罪を暴いて欲しい」


 神妙な面持ちのハンスとユージンは、期待の籠った眼差しでレラを見た。

 ……困ったな。

 確かにミーシャのことは好きでない。が、彼女が厳しく当たるのは、幼い頃に両親が病に伏せたことの不安と、彼女に正を説く人間がいなくなったことが原因であると思っていた。

 自分が彼女の不幸を願ってはいるかと言われると迷いが生じる。彼女はフォード家が非合法的な手段で宝石を手に入れたことを知らないかもしれないのだ。


「知っているよ」


 は、と口から声が漏れた。声の主は深紅の瞳でレラを捕えている。

 彼女の思考回路を読んだのだろうか。指先が少し震えた。アルトリウスが瞳孔を開いた。


「ミーシャは知っている。以前、兵が彼女の指輪にはめられていたボロボロの黄色い宝石について尋ねた所、『あるものを砕いた』と言っていたそうだ。あぁ、『あたしの家族は、便利で有益な生き物を飼っていた』とも言っていたね。失うものが無い人間は怖いなぁ。彼女は聞いた人間の表情が歪むさまを楽しんでいるようだった」

「でも、」

「確かにミーシャ自身は、直接手を下していないかもしれないね。だが、知っていたという事実を君はどう捉える? 僕からすると、彼女の存在は害だ。直ちに排除しなくてはならない」


 揺れるレラに彼の真っ直ぐな視線が刺さる。端正な顔から表情を失ったアルトリウスの顔は、復讐に燃える団罪人のようにさえ思えた。


「彼女は野放しにしてはいけない人間なんだ」

「どうしてそこまでミーシャに、フォード家にこだわるんですか?」

「フォード家は妖精と人間の絶縁を招いた一族の生き残りだからだよ」

「え?」

「ヴァンガーディ王国に伝わる国宝、『妖精の嬉涙』は妖精姫レラシャナクの悲涙だ。遥か過去、妖精と人間は上手く共生していたが、ある日を境に妖精が人間の我欲のために虐殺され始めた。仲間を蹂躙されたレラシャナク姫は、人間とのかかわりを完全に絶つことを決めた。親交のあった人間に対する別れの哀しみと、人間を心から信用できなくなったことへの悲しみから『妖精の悲涙』が生まれた。……この事実は、王族にしか伝わっていないよ。……人間の醜さを証明することになるからね」


 ひと息ついたアルトリウスは、日差しを隠す雲によって灰色に彩られる。色を失ったかのような世界において、彼の赤い目だけが異質に輝いた。

 その場にいた皆が異変を感じたようで、クラリスは彼をじっと観察し、ユージンは一歩レラに歩み寄る。

 ハンスは主の傍から一歩も離れず、彼と共に色の失った世界に立っていた。


「私は妖精なの?」

「純粋な妖精ということはないだろうが、おそらく妖精寄りだろうね。君の、水晶のように透き通る髪の毛がそれを証明している。純粋な妖精ほど髪の透明度が高いんだ」

「じゃあ、」


 レラがアルトリウスの髪を見た。レラ程ではないが、黒く透き通っている。


「あぁ、僕も少なからず妖精の血が混じっているよ。古代魔法の心得もある」

「えぇ!!」


 彼女だけが叫んだ。


お読みいただきありがとうございました!

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