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第17話 再会

閲覧ありがとうございます!

 

 交流会当日。

 ドレスを着た1回生の生徒たちはぞろぞろと寮を出て、目的の施設まで歩いた。

 やや冷たい空気をもろともせず、皆が浮足立って歩みを進める。

 入り口に、目立つ黄色の姿があった。……レラの足が固まった。

 今日の彼女は、意外にも真っ青な服を着ている。

 深海を思わせる深い碧。ふんだんに散りばめられた宝石が不規則に輝き、海を想起させる。


「ミーシャ様ですね」

「えぇ」


 女は我が物顔で建物内へ入っていく。まるでこの会の主役が自分だといわんばかりに。

 立ち止まる私の背に一回り大きい影が落ちる。


「レラ。進んでください。後ろがつっかえてますよ」

「……ハンス」


 見上げると、普段とは異なる雰囲気のハンスがいた。うわ、王子様みたい。

 彼の一挙手一投足を逃すまいと、女性たちが周囲を取り囲んでいる。

 今の彼と話すのは気が引ける。女性たちの視線が痛い。


「ハンスは、今日も目立つね」

「そうですか?今日は君の方が目立つと思いますけど」

「え……、どこか変かな?やっぱり身の丈に合わない服を着るものじゃないね」

「……」


 珍しい。彼は軽口を叩かず、じっとこちらを見るばかりだ。彼の言葉を待っていると、彼はパッと視線を逸らしてきた。気に障ることをしてしまったかな。


「それじゃ、気をつけて下さい」

「?うん」


 言うや否や、ハンスはさっさと歩いて行ってしまった。

 気をつける。ミーシャのことだろう。今日の目標は、彼女の視界に入らず、静かに立ち去ることだ。

 会が終わるまで息を潜め続けることが私の目標。




 私は受付を済ませ、会場に足を踏み入れた。騒々しく煌びやかな世界が広がっている。

 目の前には大きなホールとその先に大きな階段があった。ホールの隣室では立食形式で食べ物を楽しめるらしい。

 ――眼前の階段の先には、あの人がいた。

 アルトリウス・ヴァンガーディ王子。

 透き通る黒髪に赤い瞳。そのオーラは圧倒的で、その隣にはクラリス様と……。


「ハン、ス?」


 この国の権力者であるアルトリウス様と砕けた様子で親し気に話す、私の友達。

 私なんかに太陽のような温かい笑顔を向けてくれて、平民の出という共通点から何かと気にかけてくれていた彼。

 勝手に仲間だと思っていたけれど、彼からしたら面白半分で絡んでいたのかもしれない。

 あぁ、そういえば私達にはユージンという共通の知り合いがいる。ユージンに言われて、わざわざ世話を焼いてくれたのかな。

 少し、悲しいような誇らしいような。あまり感じたことの無い複雑な感情だった。

 これから、普通に接してもいいのかな?

 そんな私の思考を強引に打ち破ったのは、隣の輪から聞こえてくるあの声だった。


「は? ありえない。なんであの女が青いドレスな訳!?」


 良かった。私の事じゃなかった。が、知り合いを悪く言われていることに少しばかり苛立つ。

 取り巻きは目立たないようヒソヒソ声で話しているが、当の本人が大声なのでその配慮も徒労に終わる。


「そうですね……。クラリス様は赤いドレスを着てくるものだと思っていました」

「意味わかんない!!」

「ミーシャ様、落ち着いて下さい。他にも青いドレスの方はいますから」

「黙れ! 他の奴らはどうでもいいのよ! あの女、あたしへの当てつけだわ!!」


 どうやらプライドの高いミーシャはクラリス様が同じ青いドレスを着てきたことが気に食わないようだ。

 私はアルトリウス王子の隣にいる彼女を見た。

 真っ赤な御髪に真っ青なドレス。一見、ちぐはぐに思えるがクラリス様の美貌がそれを許さない。

 髪にはバラの宝石の飾りをつけている。赤、緑、青の三色の花弁が重なり、中央部は白く輝いている。

 とても――。


「きれい」


 口から思わず零れた声を聞かれていたのだろうか、カツカツと嫌な音が近付いてくる。

 どうか私じゃありませんように。私じゃありませんように。

 そんな願いもむなしく、音は目の前で止まり、俯く顔を強引に掴まれた。爪が刺さる。


「お前、何でここにいんの」

「いたら……ダメなの?」

「お前さぁ、調子乗ってるんじゃない? 前まではあたしに怯えて震えて、まともに喋れなかったくせに。最近、何強気になっちゃってんの? ハンスとかいうあの男に守られてるからって、いい気になるなよ」

「なってない」

「黙れ!」


 なぜだろう。今日はいつもより彼女が怖くない気がする。

 対面すると激昂する彼女がなぜか小さく見えた。


「恥ずかしいから手を離して」


 無論、周囲の人間は行動を止めて私達を見ている。幸い、遠くのアルトリウス様たちは気が付いていないようだけれど。ハンスがいなくとも、私は大丈夫。私は1人で彼女に立ち向かえる。


「は……?」

「手をどけて」


 ミーシャは人前で猫を被る、だから平気。そう思っていた。

 バチン、と頬に衝撃が走った時、自分の考えの甘さを悔やんだ。


「うざいんだよ!」

「やめて。大声を出さないで」


 今日の私はどうしちゃったんだろう。ミーシャが感情を高ぶらせるほど、冷静になれる。

 普段と違う服を着ているからかな。色とりどりの宝石達が私に勇気をくれるみたい。


「……っ」


 ミーシャが突如、黙った。……あ、危ないかもしれない。今までの経験から脳内が警鐘を鳴らし始める。

 彼女を取り巻く空気が変わった。考えたくはないけれど、この人は私に向かって魔法を使おうとしている。私も自分の身と周囲を守ろうと魔法を展開しようとしたのだが、


「そこまでだよ」


 何者かが霧のように現れた。

 ミーシャが私に向かって伸ばした手からは、何も出ることはなかった。

 伸ばされた彼女の細い指には、指輪があった。

 その指輪の黄色い宝石が酷く傷ついていて、なぜか心がずしんと重くなる。

 ミーシャが前方に手を伸ばしたまま口をぽかんと開けて、必死に言葉を振り絞る。


「……ユー、ジン……?」

「怪我はない?レラ」


 絶句するミーシャに背を向けたユージンが、私に向かって心配そうに口を歪めた。

 懐かしくて遠い記憶が刺激される。記憶にあるユージンはフォード家の書庫を管理する司書で、ミーシャとよく話していて、私と親しいことがバレないように気遣っていて、そして……ある日、突然辞めてしまった。


 今この場にいるユージンは、どこか別人のように見える。背が少し高くなって、顔が大人びている。

 あぁそうだ。ハンスによれば、ユージンは「お金に困らない人」なんだっけ。そんな人がフォード家で働いていたなんて、何か理由があるのかな。

 思い返すと、ユージンは屋敷で彼女の話ばかりしていた気がする。

 私にとっては怖い人だけれど、ユージンにとってミーシャは大切な人なのかな。


「私は平気。早くミーシャを――……」


 落ち着かせて。と、言いたかった口が止まる。私とユージンの間に、黄色い頭が割り込んできたからだ。


「ユージン!!どこに行っていたの?ずっと会いたかったのよ!」


 バチン


 レラの目が、ミーシャの手を叩き落とすユージンの手に釘づけになった。


「気安く話しかけないでくれる?」

「……え?」


 温度の失われた声で、一瞥することも無く彼は言い放つ。

 ミーシャの笑顔が固まり、震える声が残った。


 静寂が訪れたかと思われた時、突如、音楽が鳴り響いた。

 演奏者が一斉に楽器をかき鳴らし始めたのだ。いつの間にか交流会の開始時刻が訪れていたようだ。


 アルトリウス様が開幕の挨拶をしていたようだが、私はそれどころではない。

 叩かれた手を見つめながら俯くミーシャと、私の隣で周囲を警戒しているユージンが気になって仕方なかった。

 横にいるユージンにそっと問う。今の彼は酷くピリついている。


「何で、ここにいるの?」

「君はもっと警戒心を持った方が良い。君を狙う奴が知った顔だけだとは思わない方がいいよ」


 問いかけには答えてもらえず、彼は目を光らせ続けるばかりだ。一体、彼は何から私を守っている?


『……気を付けてね。この機に乗じてレラさんを狙う輩がいないとも限らない。』


 答え合わせのようにメリッサ先生の声が蘇る。

 私が失われた魔法――古代魔術を使えるから気を付けて、と。


「ユージン」

「何」

「もしかして……、知っているの?」


 ―何を、それは言わずもがな。


「うん」

「どうして」

「君とあの家で出会ったのは本当に偶然だよ。でも、あそこで君と会って、君の魔法を見た時から分かってしまった。……そうだ。レラの造った宝石は、僕が然るべき場所に売っているから安心して。誓って金儲けの為には使っていない」


 言いたいことがまだたくさん残っている。

 口を開こうとした時、ユージンが眉を潜めた。

 あぁクソ、見られた。とか何とか言って階段を睨みつけている。正確には、その上にいる人物に。

 すぐに笑顔になった彼は、私に向かって前のように柔和な笑みを向けた。そして長い指で私の髪を梳いた。


「レラ、その服、すごく似合っている」


 ――そう言い残し、彼は霧のように消えてしまった。


お読みいただきありがとうございました!

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