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第13話 優しさ

閲覧ありがとうございます!


 ユージンが問う。

 

「で、アルトリウスが交流会を提案するに至った理由は?何も考え無しに僕達を呼び出すような人じゃないだろ」

「ユージンの言う通り、ただの交流会なら君達を不意に呼びつける必要は無い」

「……『冬に見た朝焼けの金色』かしら。その女性が近くにいるからって痺れを切らしたようね。堪え性の無い方のようですこと」

「この宝石が学校内にいる時だけ、光るんだ。それは僕が探している彼女がこの場にいることを確かに証明している。王国の文官たちが金色の髪の毛を持つ生徒を1人1人審査しているようだけど、そんなことをしていては効率が悪いし、悪意ある人間の妨害を受けないとも限らない。第一王子である僕に相応しい人間を身繕い、献上してくるのが彼らの目論見だろう」

「で、でも交流会なんて、アルトリウス様の御身が危険に晒される可能性があります。俺は反対です!」


 ハンスの隣でクスリと笑う、無邪気な少女の声がした。

 王子の目の前。ハンスは眉が潜まらないよう努めた。せめて後ろ手でしっしっと手を払う。


「あらハンス。貴方、アルトリウスに意見できたのね」

「もう! クラリス嬢は黙っていてください」


 再びバチバチと睨み合う2人をよそに、ユージンは何かを握り、深く考えている様子だった。

 現在、彼の懐には想い人から貰った宝石が丁寧に胸元に仕舞われている。彼女と別れてから、その宝石を一時たりとも手放したことはない。


 一方のアルトリウスは恩人から貰った透明な宝石を掌に載せ、ギュッとそれを軽く握る。これは彼の命の恩人を見つけ出すための、唯一の手掛かりであった。


「僕は平気さ。だって、君達がいるんだから」


 アルトリウスは凛とした口調で淀みなく言い放った。

 ずるい。ハンスは不敬ながらそう思ってしまう。そんな言い方をされたら、俺は断れない。


「かしこま——」

「断るわ」

「えっ」


 ハンスは驚いて左隣の不遜な少女の横顔を食い入るように見つめる。

 クラリスだって名目上は「アルトリウス様の婚約者」だけれど、その実態は不可視の盾だ。

 家柄と容姿、そして実力の3点を彼女より上回る女性はまずいない。アルトリウスに余計な縁談を持ち込まれないように依頼された、いわば仕事仲間だ。


 ハンスにとってアルトリウスの命ならば断る道理はないはずだが、彼女は違うらしい。あくまで、ビジネスとして無益な依頼は引き受けない。恐らくこの後に発せられる言葉は—、


「どうしてもというならば、対価を提示してくださいな。わたくし、ただ働きはしたくないの」

「『三原色のバラ』」

「――!」


 流石、アルトリウス様は一枚上手だったようだ。彼女が対価を要求することは既に織り込み済みか。ハンスはクラリスが心を乱される姿を初めて目にした。


「……嘘だったら燃やすわよ」

「赤、緑、青を基に多様な色彩を放ち、中央は白く輝く幻のバラ。といっても、生花じゃないのが興味深い。宝石で出来た精緻で技巧が施された逸品だ。手に入れるのは酷く苦労したよ。ユージンに感謝しないとね」

「いいや。僕もその苦労に見合う報酬を貰ったからお互い様だよ」

「君が宝石商になりたいと言い出すなんて、驚いたね。最適な商い場所を提供した甲斐はあったかな」

「もちろん。仕入れ場所を問わず、宝石が集まるようになった。おかげさまで僕のやりたいことがおおいに捗ったよ」

「それは何よりだ」


 アルトリウスとユージンが互いを見、頷き合ったと思いきや、蚊帳の外にいた炎の少女が燃える髪の毛を燻ぶらせた。周囲の気温が幾ばくか上昇する。


「お戯れもそこまでにしてください、ユージン。今はわたくしの話の途中ですよ」

「あ、ごめんね。アルトリウスと会うのが1年ぶりなもので、つい」

「いいえ。分かって下さればいいのかしら」


 なぜかユージンには甘いクラリスがアルトリウス王子に一歩詰め寄り、薔薇の匂いが漂った。

 その匂いには、会話を邪魔するな燃やすぞという鋭い意思が込められている。


「アルトリウス、その品は今どこに?」

「僕の自室の金庫だ。ユージンの結界が施されているから安全は保証する」

「そう。前払いよ」

「もちろん、君の仰せのままに」


 クラリスが同意したことで、アルトリウス主催の交流会がここヴァンガーディ王国の魔法学校で開催することが決定した。生徒ではないユージンはアルトリウスの私兵として陰から見守ることになった。







 ―数日後。学校内は2週間後の会のことで話が持ちきりだった。

 突然の通達に「ドレスが間に合うかしら」「痩せなきゃ!」という、うら若き少女質の悲鳴がこだまする。

 そんな少女たちを尻目に、ミーシャ・フォードは教室で整えられた爪をいじっていた。


 お前らには関係ないのに。

 アルトリウス様はあたしを見つけた。金髪で身分が高くて、魔法も上手。芋みたいな女たちがいくら足掻いてたって無駄。彼の運命はあたしなんだから。

 もちろん、気に入らないクラリスの存在は脳内から抹消済だ。


 蒼い瞳でぐるりと教室内を見渡すが、誰も彼女と目を合わせない。

 みんな、あたしにびびってるんだ。いつもの取り巻きはクラスが違う。と言っても、フォードの名前にたかっている蠅のような取り巻きだけれど。誰もあたしに見合う友人がいないのよ。

 唯一、屋敷に仕えていた司書ユージンはあたしに気があると分かっていても、なぜか不快じゃなかったわね。どこの馬の骨とも分からない男だったかれど、知性と品性は合格だったわ。

 ……そういえば、ユージンはフォード家の地下倉庫を見たがっていたわねぇ。まだ見せる段階では無いから断ったけれど。地下にはフォード家の秘密の財が眠っているもの。

 ユージンも宝石、金銀財宝、富が好きなのかしら。

 富。貧。貴族、平民。あの女。

 なんでまだ退学してないの? 魔法もろくに使えないくせに。

 あの女のせいであたしの思い通りに全てが進まない。


 あぁイライラする。


 ミーシャは爪でトントンと机を叩き、立ち上がった。

 教室内が一瞬静まり返るが、彼女が教室を立ち去った途端に喧騒が戻った。




 寮区画の中央にある掲示板を見てレラは立ち竦む。

 高級な魔法紙に淡く光る黄金のインクで書かれた高級で重要なお知らせ。


「こ、こう、りゅう」

「――かい」


 私の動揺を平静のハンスが引き継いだ。首を傾け、やや高い位置にある声の主を見る。

 目が合った途端、眩い笑顔を向けられて思わず顔を逸らしてしまう。


「交流会。みんなで綺麗な服着てお話しするんですよ」

「お、お話……。私はいいや……」

「残念ながらこれは全員参加です。学年ごとに時間帯が分かれているみたいですね。俺らは15時から17時の会。帰りは肌寒い時間ですか」

「それよりも、ドレス持ってないよ。だからと言って今後着るかも分からないドレスを買うのもなぁ……」

「卒業式で着ればいいじゃないですか。他に友人の結婚式とか……あっ、すみません。友人はいないかもしれないんですっけ」

「失礼だね。そんなこと言ってたらハンス、結婚できないよ」


 彼と出会って数か月が経つせいか、彼の本性が分かってきた。ハンスは丁寧な外面を被った失礼な人だ。きっとある程度気心が知れた人物にはこうなのだろう。言われっぱなしは癪なので、最近は言い返すようにしている。


「俺は大丈夫です。結婚はしないって決めているので」

「強がらなくてもいいのに」

「強がりじゃありませんよ。俺の命は人のためにあらず。この国のものですから。それ以外に大切な存在を作ったら剣が鈍る」

「自分の人生だよ。自分のために生きて良いと思う」

「……その言葉、そっくりそのままレラに返しますよ。君も早く自由になれればいいのにね」

「え?」


 私が聞き返そうとすると、ちょっとだけ他人の目をしたハンスがいた。そんな彼の姿を見たのは一瞬で、彼はすぐに猫目を細めて微笑んだ。


「今度の休日、一緒に買いに行きましょうか」

「え、いいの?」

「はい。メリッサ女史にはレラから話しておいてください」


 彼はどうして見ず知らずの私にここまで優しくしてくれるのだろう。

 私は彼に対して何も恩を返せないのに。

 私の境遇を憐れんだり、臆病な性格を矯正しようとしていたり、色々彼の思惑に考えを巡らせるけれど、どれもしっくりこなかった。


お読みいただきありがとうございました!


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