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第12話 提案

閲覧ありがとうございます!

 

「ミーシャさま、こちらでお待ちください」


 ミーシャは広々とした応接室に通された。周囲はどれも金髪の若い女ばかり。

 貴族の装いをしている者もいれば、みずぼらしい庶民の服を着ている者も若干名いる。

 応接室には文官が数名いた。どうやら面接のようなものを行うらしい。

 庶民と一緒の空間に収められていることが、死ぬほど嫌だったが、ここで事を荒立てるべきではないことを理解できない程馬鹿じゃない。

 もしかしたら王子に見初められるかもしれない。そうすればあの高慢ちきで高飛車な女、クラリスを潰すことが出来る。

 脳裏に大嫌いなあの気弱な女が浮かんだ。あいつは使用人の奴隷のくせに、あたしを見下している。何も言い返せないくせに、芯が折れていない。きっと、内心であたしに反抗する隙を伺っているんだわ。恩知らずの害虫。


 あぁ、思い出すだけで苛立ってきた。

 ミーシャは身に着けた黄色い宝石をガリガリと指で引っ掻いた。

 あたしの家はこのどうでも良い石ころを大量に持っている。世間では価値があるらしいけれど、家の地下倉庫に沢山あるのを、あたしは知っている。いつから持っているのかと、両親が元気な頃に尋ねたら「代々受け継がれている。その宝石を生み出す道具がなくなったから、ここにあるのがその全てだ。上手く使え」と返ってきた。

 よく分からないが、あたしは永遠にお金持ちということだろう。

 よく分からない請求は、地下の石の塊を削って、数個ほど換金したらすぐに消える。それを繰り返しているから、どんどん石が減っている気がするけれど。あたしが生きている内は絶対に平気。


「――ミーシャ・フォード様は、宝石商を営んでいらっしゃるのですね。幼い頃は何をなされていたのですか?」

「主に魔法の鍛錬と、商いについて両親から少々学んでおりました」

「ほう。流石フォード家のお方」

「光栄ですわ」


 ……いくつかのやり取りを介し、あたしの番はあっけなく終了した。本当にありきたりで単純な質問のみだった。


「……は?」


 小さく呟く。隣で別の金髪が質問されている。


「――さまは、幼い頃どんなことをしてお過ごしで?」

「えぇっと、露天を開いていました。でも、途中で人攫いに遭って―――」

「よろしければ詳しく、お聞かせ願えますか」

「は、はい……」


 は?このあたしより、貧相な女への食いつきがいい。有り得ない。

 どう考えてもこの中で一番偉いのはあたしでしょう?

 ガリ、ガリ、ガリ。右親指の爪で、左手の人差し指にある石を引っ掻いた。


 うざい。うざい。うざい!!!






「ハンス、今日はありがとう。楽しい休日だった」

「俺の方こそありがとうございました。……女史との約束を奪ったみたいになってしまって、申し訳ありません」

「いいえ!すごく、貴重な体験が出来た。今まで、とっ、ともだちと遊んだこと無かったから」

「そうなんですか?ミーシャ嬢の屋敷にいた時も、同年代の人はいたでしょう」

「でもみんな、ミーシャに逆らえないから。私と仲よくすると、追い出されちゃう」

「そうですか。でも中には『いい人』もいたでしょうね」

「うん。ユージンがいなかったら、私はきっとこの場にいない」

「へぇ。優しい人だ」

「うん。いつかまた会えたらいいな」


 私は目を瞑り、どこにいるとも分からないユージンに向けて祈った。どうか、健康でありますように。

 そんな私をじっと見つめるハンスだったが、彼の懐中時計が小さく音をたて始めた瞬間、弾かれるようにしてそれを開いた。


「じゃあ、俺はここで帰ります。任務が入ったので」

「お休みじゃないの?」

「残念なことに、たまに緊急の任務とかがあるんですよ。もちろん、その分の給料は出ますけどね。急ぎの時はこれが音を出すんです。追跡機能の宝石と似たような原理ですね。と言っても、個人を特定する機能はないから、俺の隊に一斉に発信されている感じです」

「そうなんだ」

「それでは、また明日。女史にも宜しく言っといてください」

「うん、また明日」


 思いのほか勢いよく走り去るハンスの背を見送りながら、私はその言葉を噛みしめていた。

 彼はこんな私にも、明日への繋がりの言葉をくれる。

『また明日』。それは孤独なレラにとっての、小さなおまじないだった。







「学校で交流会を開くことにしようと思うんだけれど、どうかな。君達の意見を聞きたいんだ」


 紅い瞳がその場にいる3人を捉えている。

 親しみやすく近寄りがたい容姿を持つ彼は、古くから親交のある人間達に向かって気軽に問いかけた。


 汗だくのハンスが呼び出された場所は、クラス1の教室だ。

 夕焼けを背に、アルトリウスは不敵に優雅に笑っている。


 ハンスとは異なり髪1つ乱していない少女が、手元の扇を顎に当て、切れ長の目で王子を睨みつける。

 その気位の高さが垣間見える仕草は、圧倒されるほど様になっているが、同じ気品を兼ね備える王子には彼女の放つ異様な圧は通用していないようだった。


「1つ、聞いてもいいかしら?まさか、そんな事のためにわたくし達を呼び出した訳じゃないわよね。……まだ、薔薇のお手入れが残っていたのだけれど」

「クラリス、そんなに眉を吊り上げないでくれ。判断を急ぎたかったんだ。ハンスも、すまないね」

「私は正直、焦りましたよ。普段鳴らないはずのアルトリウス様御用達の懐中時計が鳴ったので、どんなことかと慌ててきてみれば。……まぁ、何事も無くて良かったです」


 ハンスがアルトリウス様に向かって一礼をすると、右隣から久方ぶりに聞く、落ち着いた声が聞こえた。


「僕はここの生徒じゃない……からさ、非常に居ずらいんだけど。入学を蹴ったのは自分だけど……」


 黒いローブに身を包んだ彼に向かって、アルトリウスが両手を広げて歓迎する。


「ユージン! 忙しいところ、来てくれてありがとう。呼びつけて申し訳なかったね。君がこの辺にいると耳にしたものだから。ところで、調査の方は進んでいるのか?」

「ぼちぼちだね。やっぱり古代魔法を扱える生存者はそう易々と見つからない。彼らが遺した品はいくつか発見することが出来たのが唯一の収穫かな。でも魔法痕跡が古すぎて、作り手は追うことが出来なかった。残存する魔力も当てにならない」

「そうか……。とりあえず今はゆっくり休むといい。そうだ! 君の姉君も元気だよ。最近、懇意にしている生徒がいるようだ」

「げ。あの乱暴なメリッサねぇさんに気に入られるなんて、その人も災難だなぁ。でも、ねぇさんが気に入るくらいだから、相当なやり手なんだろうね」


 ユージンがフードを脱ぎ、その藍色の頭を露にした。姉と同じく知的な深緑の瞳を夕日に照らし、窓の外を見る。休日にも学校に来る生徒は珍しくない、まばらに歩く人々は皆寮に向かって歩いていた。

 アルトリウスはユージンに向かって首を傾げた。


「いや、それが噂によるとその生徒は魔力が全くな—……」

「――お喋りは」


 パチン

 突如、クラリスが扇を勢いよく開いた。口元を隠し、目で不快を訴える。


 ハンスはクラリスの度胸に驚いていた。

 ヴァンガーディ王国の第一王子アルトリウスと、王国最古と言われる魔法組織の長男ユージンの間に割り込むとは。

 とは言え、彼女もヴァンガーディ王国の貿易の5割を担う大富豪エンリーナ家のご令嬢で、アルトリウス王子の婚約者である。そして言うまでもなく突出した魔法の才を持っている。

 力と気合のみで成り上がり、アルトリウス様の盾となることを命じられただけの自分とは育ちが、格が違う。


「そこまでにしてくれるかしら。わたくし達は、貴方がたの懐古癖に付き合う趣味は持ち合わせてないのだから」

「わたくし”達”!?……クラリス嬢。俺を巻き込まないでください」

「五月蠅いわよ。貴方もアルトリウスに進言できるようになるのを勧めるわ。忠誠は美徳だけれど妄信は悪徳よ」

「アルトリウス様は常に正しい判断を下せる方ですから、平気です」

「そのアルトリウス様、が交流会を開くか否かという疑問をぶつけるためだけに、わたしたちは穏やかな余暇を唐突に潰され、こうして呼び出されていることを認識した方がいいわよ」

「ぐ」


 ハンス言い淀むと、クラリスはスッと口角をあげて扇を仕舞う。

 2人のやり取りを見ていたアルトリウスとユージンが口をそろえていった。


「君達、まだ仲悪いんだ」「相変わらずだなぁ」



お読みいただきありがとうございました!

ハンスとクラリスのやり取りが結構好きです。

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