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侯爵様の愛しい侍従   作者: ユタニ


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47話 リルベア(4)


2階に上がると、甘い匂いが濃くなった。

マルはちらりとクラウディオと騎士達を見る。今のところは大丈夫そうだ。


騎士ともなると、匂いくらいでは反応しないのだろう。これは後でリルベアに伝えよう。


甘い匂いは奥の部屋から漂っている。マルは迷わず奥の部屋へと進んだ。


マルがすたすたと先頭を歩くので、クラウディオが止めようとしてくる。

「マル、下がって。」

「大丈夫です。」

マルがそう言い、なぜかクラウディオは逆らえない。



なんだ?とクラウディオは思った。

この甘い匂いのせいな気がした。

危険な感じがするのに、上手く判断できない。

マルはどうしてこんなに落ち着いているんだろう?



マルは奥の部屋の扉をそっとノックして、小声で呼び掛ける。

「リルベア、遅くなってごめんなさい。マルです。入ってもいい?」


マルの呼び掛けに中からくすくすと笑い声がして、「いい子ね。」というリルベアの声がした。


「何人いるのかしら?」

リルベアが聞く。


「私を含めて5人です。少し弛められる?」


「いいわよ。入って。」


マルはそっと扉を開けた。




扉を開けて、クラウディオの目に飛び込んできたのは、中央の椅子に座る妖艶な女と、彼女にはべる3人の男だった。


3人の内1人は、靴を履いたままの女の足の甲に口づけをしていて、女の手は傍らにひざまずいている別の男の頭にのせられていた。最後の1人は少し離れた所に腑抜けた表情で天を仰ぎながら立っている。


クラウディオは女を知っているような気がしたが、それ以上考えられなかった。

分かるのは、その女がすごく魅力的だという事だけだった。


クラウディオは一緒に部屋に入った他の騎士達が、ふらふらと女のもとに向かうのを見た。


そして自分も、彼女のもとに行って、ひざまずいて、愛を請いたかった。


あの男のように、彼女の足でいいから口づけをして、どこでもいいから彼女に触ってもらいたい。

そんなとても強い欲望が込み上げてくる。



これは、あの時のだ。

あの時と同じだ。


マルの兄イアンに初めて会って、その力を説明された時と同じだ。


あの、魅了の魔法をかけられた時と。


クラウディオはイアンとの初対面を思い出す。


あの時、イアンの部屋に入るなり今と同じ衝動にかられた。クラウディオが衝動の元に気付くとイアンはそれを弛めて申し訳なさそうに笑った。


でも、今回、あの女は弛めてくれる気はないようだ。


彼女にかしずく欲望に抗うほど、どんどん体が熱くなる。


今すぐ、あの男達を押しのけて、彼女の足にキスをしたい。



今すぐ。






マルは騎士達がふらふらとリルベアへ向かって行くのを確認し、自分がこの男達を縛らなければと縛るものを探した。


クラウディオがリルベアに呆けるのは、できれば直視はしたくなかったので作業に集中しようと思っていると、突然、腕を強く掴まれた。


えっ?


びっくりして振り返ると、掴んだのはクラウディオで、マルはそのまま強く抱きしめられて、顎を押さえつけられ強引にキスされた。


「んむっ?」


「んむむっ。」


食べられるみたいなキスで、マルはびっくりする。

いつもの優しい感じは一切なく、すごく切羽詰まっていて激しい。

マルの都合はお構い無しに、噛みつかれて蹂躙された。


「んふ。」


真面目に息ができない。

ちょっと苦しい。

歯があたって、唇もきつく噛まれる。


「んぅ、、、。」

手でクラウディオを押し退けようとしたがびくともしない。きつくきつく抱き締められて痛い。

こんなの初めてだ。いつもすごく優しいのに。


抵抗を諦めて、されるがままになった。

冷静になろうと思うが、頭がじんと痺れて力が抜けそうだ。




マルがへたりそうになった時、

「ずいぶん、見せつけてくれるわねえ。」

リルベアがそう言って、クラウディオはやっとマルから体を離してくれた。

息が荒い。


「ふふ、マルにキスして少し発散させたのね、かしこいのね。」


「ラウ、とにかく、ちょっと部屋から出てて。」

マルは自分も荒い息をしながら、急いでクラウディオを部屋の外へ押しだして扉を閉めた。

それからリルベアが縛られていたのであろう縄を使って男達を縛る。



「解くわよ。」

男達が縛られたのを確認して、リルベアはそう言うと魅了の魔法を解いた。


「騎士さん達は直に元に戻るわ。こっちは、大分強く長時間あてたから、数日くらいこのままかも。」

まだ恍惚としている人攫いの男達を見て、リルベアはにっこりしながらマルにそう言った。




人攫い達を縛り終わってからマルはそっと部屋の外に声をかけた。

「ラウ、もう入って大丈夫です。」



クラウディオが真っ赤な顔を手で覆いながら入ってきた。


「ごめん、マル。」

小さな声で謝罪してくる。


「最悪だ、あんな、獣みたいな、、、、。」

ぼそぼそとつぶやきながらクラウディオはマルの下唇が切れて血が出ているのにも気付いた。


「本当にごめん。血が出てる。」

「えっ?ああ、ほんとだ。大丈夫。しょうがないです。」


「うふふ、魅了になびかない男なんて、レイモンド以来よ。なびかないから思わず本気だしちゃった。」

リルベアが面白そうにクラウディオに寄っていく。


「レイモンド卿、なびかないんですか?」

マルはそっちにびっくりした。


「そうよ。まあ、あれはきっと先天的なものだと思うけど。マルの夫は意思の力で抵抗したみたいね。横にマルがいたせいもあるかしらね?私への欲望をマルへの欲望にすり替えたのよね?」


リルベアはクラウディオの手を取って妖艶に微笑む。


「リル、やめて。」

マルは少しむっとしながら言った。


「あら、怒った。ごめんなさいね。」


「貴女は、リルベア嬢ですね?さっきは分からなかった。すみません。」

クラウディオが大分いつもの様子を取り戻して言った。


「大丈夫よ。そういうものよ。気にしないで。貴方は私に魅力を感じたんじゃなくて、魅了の魔法にかかってただけよ。あら、その顔は、知ってたのかしら?」


「前にイアンにかけられました。」

クラウディオの言葉にマルは驚く。


「さすがターゼンの婿殿ね。ちゃんと説明されてるのね。」

「ええ、説明を受けました。この魔法はターゼン領の外では使用禁止と聞いてますが。」


魅了の魔法は木の精霊ドリアードが使うとされているものだ。

ターゼンの領地には希にこの魔法を使える者が居る。ほとんどが精霊の血が濃く出ている者達だ。

人外のその能力は危険なものでもあるので、領地の外では使用はもちろん口外も禁止されている。


知ってたんだ、、、、。とマルは思った。

でも、確かに、クラウディオはターゼンに婿入りしているから知ってて当然だ。


「今は緊急事態だったもの。しょうがないでしょ。」

「まあ、確かにそうですね。」

「本気で魅了をかけたの怒ってるの?」


「少し。」

クラウディオがそう言うとリルベアは可笑しそうに笑った。


「ふふふ、ごめんなさいね?確かに愛する妻の前では良くなかったわね。あ、マルも怒ってるわね。悪かったわよ。悪かったわ。ほら、そろそろ騎士さん達が正気になってくるわよ。適当に理由つけて収拾しましょ。」

じとっと睨むマルに気付いてリルベアはマルの頭をよしよししながら謝った。




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