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侯爵様の愛しい侍従   作者: ユタニ


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46話 リルベア(3)


「すいません、こちらでうちの家の者が保護されてると聞いて来たんですが、」

クラウディオの声だった。


ぱっと振り返ると、部屋の扉が勢いよく開いてクラウディオが入ってきた。

走ってきたのか息が荒い。クラウディオはマルを見つけるとそのまま足早に歩いて来てぎゅっときつく抱き締めた。


顔に添えられたクラウディオの手は冷たくて震えていた。近衛の騎士服ごしに伝わる動悸は激しくて早い。

もの凄く心配してくれていたんだと分かって苦しい。


「どこも、何もされてない?」

「私は大丈夫です。」

「良かった。いろいろ言いたい事はあるけど、まずはリルベア嬢だね。」


クラウディオは小声でマルとのやり取りを終えると、2人の抱擁にぎょっとしている騎士達に「家で預かっている遠縁の子なんです。弟同然なので取り乱してしまい、すいません。」とさらりと説明する。


「そうでしたか。」

「はい。近衛騎士団に連絡があった時は本当に心配しました。」

どうやら屋敷からか、もしくはリンカから近衛騎士団にも連絡がいったようだ。


騎士達が先ほどの抱擁に納得した所に、人攫い達の馬車が見つかったようだとの情報が入る。

店にも駆けつけてくれた3人の騎士達がすぐに現場へ向かう準備を始めた。


「ご迷惑でなければ、僕も同行して良いだろうか?拐われたのはうちの家門に関わりのある女性でもあるし。」

クラウディオがそう申し入れると、向こうは喜んで快諾した。


「クラウディオ団長が同行していただけるのはこちらもありがたいです。」


「ありがとう。マルはここに居なさい。」


「いえ!私も行きます。人攫いの顔が分かるのは私だけです。」

そして、リルベアの事を知ってるのも自分だけだ。


「足手まといにはなりません。遠目で相手の顔と馬車を確認するだけです。確認出来た方がいいでしょう?」

マルはクラウディオではなく、3人の騎士達に向かって聞いた。


「それは、、、確かにありがたいが。」

「大丈夫です。確認だけすれば隠れています。目の前であんな事になって、少しでも役に立ちたいんです。」


「分かった。ありがとう。」




5人で馬車が停まっているという帝都の外れの民家へと向かう。

マルはクラウディオによってクラウディオの駆る馬に一緒に乗せられている。


「マル、絶対に危ない真似はしないで。」

お腹にぎゅうっと片腕が回されて、耳元でそう囁かれる。

その声色は怒っている声色だった。

クラウディオとしては、マルは騎士団の詰所に残ってもらいたかったのだろう。

それは、分かる。

それは分かるのだが、今回は付いて来ない訳にはいかないのだ。


「分かりました。」

マルは小さく返した。




目的の民家に着く。5人は馬から離れた所で降りて徒歩で家の死角から近付いた。


家は可愛らしい雰囲気の2階建てで、家の前に馬車が止まりポーチには男が一人座っていた。

馬車も男も見覚えがある。


「マル、あの馬車と男であってるかい?」

騎士の1人が確認してきたので、マルは力強く頷いた。

マルの頷きに別の騎士1人が家の裏手から回り込んであっという間に見張りの男を羽交い締めにして捕縛する。


弱い。

何のための見張りなのか、と思ってしまう。やはり大分詰めの甘い悪党達のようだ。


騎士2人とマルとクラウディオもすぐにポーチへ向かう。


「1階は無人のようです。」

見張りを捕縛して剣を突きつけている騎士がそう言った。見張りの男は冷や汗を流して目を白黒させている。


「仲間と拐った女性は?2階か?」

クラウディオが低い声で聞くと、見張りは下卑た笑みを口元に浮かべて答えた。


「2階でお楽しみ中だよ。」

その言葉に捕縛していた騎士は、剣の柄で見張りの男の顔を殴った。


「っぐはっ。」

「おい、やめろ!」

見張りが悲鳴を上げて、仲間の騎士が小声で鋭くたしなめる。


「仲間はあと何人だ?また殴られたくないなら素直に答えろ。」

クラウディオの声は更に低く冷たい。


「、、、、、、、3人だ。」

見張りは一瞬反抗的な目をしたが、殴った騎士がもう一度剣を構えると白状した。マルが見た人数とも一致している。


家の玄関の鍵は開いていた。

「マルはここにいなさい。」

クラウディオが言う。


マルは首を振った。

「私が居た方がリルは安心すると思うの。」

そう主張する。

「しかし、」

「最後尾を付いていくだけだから。」

「、、、、分かった。」

クラウディオはここに見張りとマルを置いていくのも嫌だったようで渋々同意し、5人でそろりと2階への階段を上がる。


階段の半ばくらいから、ふわりと甘い匂いが漂ってきた。


リルベアが本気だな、と匂いを嗅いでマルは思った。先ほどの見張りの゛2階でお楽しみ中だ。゛の言葉にマルはリルベアの無事を確信していた。拐われてから1時間はゆうに過ぎている。

゛お楽しみ中゛であればリルベアが負けるはずはない。かなり程度の低い連中のようだし3人なら余裕だろう。


だから今付いていっているのは、リルベアを安心させるためではなくて、現場を素早く収拾させて騎士達とクラウディオを守る為だ。リルベアが本気ならあまり長い時間あてられない方がいい。


それに、、、


それに、クラウディオがリルベアに魅了されている様を悶々と想像するくらいなら現場を見てしまった方がましだ。

マルはぐっと拳を握って階段を上がった。





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