39話 ターゼンでの休暇(3)
ターゼンで休暇を過ごす最終日、の夕方、マルとクラウディオ、ヒューゴ、ソアラ、それにイアンも加えた5人は、町で一番大きい酒場、「夜鳴き亭」に向かった。
町の有志が、ターゼン家の結婚を祝って飲むということで、良ければぜひ顔を出してほしい、と声がかかったのだ。
「町の酒場だし、ソアラはムリして来なくてもいいよ。」
とマルはソアラに言ったが、ソアラはむしろ興味津々で行くと言った。
ドレスで行く訳にはいかないので、気楽な服をマルに貸してもらう。
酒場に着くと、皆、昼から飲んでいたようで、完全に出来上がっている。
「主役がきたぞー!」
と、盛り上がるが各々で好き勝手にそのまま騒ぐ中、マル達は一番後ろのテーブルに座った。
すぐに妖艶なウェイトレスが飲み物を運んでくる。
ウェーブがかった豊かな黒い髪に、目はもちろん深い黒で、肌がイアンと同じで浅黒い。
「こんばんは、マルにイアン、あと皆さんも。」
深みのある声でウェイトレスは言った。
「飲み物、適当に見繕ったけど良かったかしら?店のおごりよ。」
「ありがとう、リル。」
マルが礼を言うと、リルは微笑んだ。
マルやソアラには絶対できない、色気のある笑顔だ。
「楽しんでね。」
飲み物が揃うと、客達がマル達のテーブルを訪れては、おめでとう、と言って乾杯していく。
町の娘達はこぞって、ソアラのプラチナブロンドとクラウディオとヒューゴの銀色の髪の毛をほめた。
「そういえば、今日は侯爵様は来てないのか?金髪の。」
マルに年配の客の1人がそう聞いた。
「ケイト様のこと?」
「そんな名前だったかなあ、男前のねえちゃんだよ。レイモンドと前に来てた。」
「それは、きっとケイト様です。昨日、ひと足先に帰られたの。」
「そうかあ、残念だな。あの侯爵様、酒は強いし、躍りも良かったのになあ、、。」
マルは、ケイトは一体この酒場で何をしたんだろう、と思い、レイモンドに聞いてみなくては、と思った。
宴もたけなわになってくると、前方の一段高くなった小さな舞台でピアノが鳴り出した。
弾いているのは、リルだ。
客達が互い違いに、舞台に上がってはステップやダンスを披露しだす。
ソアラは先日、イアンが見せてくれたステップに似てるな、と思った。
「精霊に捧げる躍りなの。」
マルが説明してくれる。
「楽しそうだね。マルは行かなくていいの?」
「今は、大丈夫。その内ペアの躍りが始まるから、そうなるとどうせ呼ばれるし。」
クラウディオの問いにマルが答えるそばから、客席より声がかかった。
「イアンー!」
「イアン様ー!」
イアンが呼ばれて、あちこちで指笛が鳴らされる。
「マルー!」
マルの名前も呼ばれだす。
イアンは立ち上がると、
「マル、行ける?」
そう聞いた。
「もちろん。」
マルも立ち上がると、指笛が盛大になった。
「ラウ、たぶん次引っ張り出されるから、イアンのステップ見てて。」
マルはニヤリとしながらクラウディオにそう言い残すと、イアンと前へ出ていった。
「え?」
クラウディオはびっくりした。
「今、僕が引っ張り出されるって言ってた?」
「言ってたね。」
「言ってましたね。」
ソアラとヒューゴは口を揃えて返した。
イアンとマルが舞台に上がると、わっと歓声が上がる。
「イアン様と踊りたいやつはマル嬢の後ろに並べよー!」
誰かがそう言って、マルの後ろには5人くらい娘やら、妙齢の女性やらが並びだした。
「女将ー!女将も踊るのかよ!」
最後尾のひときわたっぷりとした女に一番大きな声援が送られる中、楽しげな曲が始まる。
イアンとマルは笑顔で互いに短いステップの交換をしてから2人で向きあって合わせ、ハイタッチして、イアンがマルをターンさせた。
マルはおじきして、次の相手と変わる。
客はみんな手拍子をしながら好き勝手なヤジを飛ばしている。イアンは終始笑顔だ。
「イザベラー!良かったな!」
「イアン様ー、かっこいいよ!」
「女将ー、イアンを潰すなよー!」
最後の女将のターンが終わると、ピアノが盛り上がりの最後のフレーズを弾いて、曲が終わった。
拍手喝采で指笛が鳴り響く。
拍手が少し、落ち着くと、イアンがピアノの方を向いて、手を差し出しながら言った。
「リル!来て。」
伴奏を弾いていたリルという女がピアノから離れて、微笑みながらイアンの手を取ると、また盛大に指笛が鳴った。
「イアンー!いいぞ!」
伴奏の代わりに手拍子が始まり、2人がさっきと同じように踊り出す。
ソアラは胸がきゅうっと痛んだ。
あら、これは困ったわね。そう思った。
イアンとリルの躍りは、手拍子がどんどん早くなる中、3ターンしてお開きになった。
わあっと歓声が上がり、イアンが優雅におじぎする。
拍手が鳴り、イアンが舞台を降りると、まだ前の方に留まっていたマルに声がかかった。
「マル!マルは残れ!」
そして、もちろん、
「「「クラウディオ卿ー!」」」
野太い声が重なってクラウディオが呼ばれた。
「なるほど、、、。」
クラウディオは苦笑いでそう呟くと、前へ向かった。
「ご結婚おめでとー!!」
「マルー!良かったな!」
「マル嬢ー、おめでとー!」
「クラウディオ卿と踊りたいやつはマル嬢の後ろに並べよー!!」
今度はイアンの倍の人数が並んだ。
最後尾にはまた女将がつける。
「「「女将ー!!」」」
クラウディオは、最初はぎこちなかったが、回数を重ねる内に上手くステップを踏めるようになり、女将のターンでは今日一番の盛り上がりになった。
マル達はそんな風にして、ターゼンでの休暇の最後の晚を過ごした。




