9 隊長-1-
再会は突然だった。
「……隊長?」
誰もがこうなるとは思っていなかったし、誰もがすぐには信じなかったから、病床にある彼がカイロウだと理解するまで数秒を要した。
「隊長!!」
真っ先に駆け寄ったのはアナグマだった。
「良かった……! 無事だったんですね!!」
「騒ぐなと言っただろう」
レイテルは舌打ちした。
「それはこっちの、セリフだ。アナグマ……あの状況で、よく、生き延びたな。ダージ……キンケル、お前たちも、ずいぶん、頼もしくなった……」
「隊長……!」
カイロウはゆっくりと息を吸い、同じ時間をかけてそれを吐き出した。
「死んだと……思った」
彼は言った。
「だが、彼らがその死を少しだけ先に延ばしてくれた……」
カイロウはちらりとアナグマたちの向こう――レイテルたちに目をやった。
再会は突然だった。
だが好ましい再会ではなかった。
愚直な隊長には似合わない、婉曲な言い回しがそれを物語っていた。
「手は尽くしたんだ。ここの医療スタッフは優秀だ」
レイテルが添えた言葉がそれを決定的なものにした。
だから彼らは理解した。
隊長は永くはないと。
この再会がきっと永遠の別れになるのだろうと。
「話は……聞いたのか……?」
カイロウの問いに三人は静かにうなずいた。
力のない目は、彼らが半信半疑であろうことを見抜いた。
「俺も同じだ」
細い声が病室に響いた。
「信じられない話だ、が……彼らの言い分は理解できる……」
「隊長、今はそんなことはどうでもいいんです。それより一日も早く――」
療養して復帰を、と願うアナグマを彼は拒んだ。
「あの時、俺は、何かに襲われ……た……。巨獣とはちがう……もっとデカい奴に」
「それは――?」
「……聞いたんだろう? 彼らの言うとおりなら……地上人だ……」
その際、大傷を負ったがレイテルたちに助けられた、とカイロウは言う。
「だがこのザマだ。俺には、分かる」
何を、とは言わない。
息も絶え絶えのこの口調が何よりも雄弁に語るからだ。
「隊長、どうか――」
ダージがその手をとる。
しかし握り返すだけの力は、もはや彼にはない。
「いまのうちに……言っておく。大事なことだ。よく……聞け」
三人は顔を見合わせた。
レイテルは取り巻きをともなって部屋を出た。
「彼らの言うことが事実かは、分からん。だが、世界が……どうであれ……」
「…………」
「俺が、死んだら――隊長はアナグマ……お前だ――」
「アナグマが……?」
ダージは眉をひそめた。
当の本人も同じ顔をしていた。
「考えていたことだ……隊としての、経験は……浅いが素養は、ある」
お前なら理念を継いで隊を率いてくれるだろう、としぼり出すようにカイロウは言った。
「なにを弱気なことを――!」
キンケルが叫んだ。
「隊長以外に誰にも務まりませんよ! 考えなおしてください!」
「この傷、だ。復帰できたとしても、指揮など、できん……どのみち引退だ……」
口調こそ弱弱しくはあったが、意志の強さは現役の頃とまったく変わっていなかった。
ときに柔軟に、ときに剛毅に。
それがカイロウであり、その姿勢が隊をここまで存続させたのだ。
「隊長……」
キンケルは悔しさに涙をにじませた。
「今後の、方針は……お前に……任せる。だが忘れるな……いかなる時も――」
彼はゆっくりと深呼吸をすると、
「隊を……隊を……守ることを一番に……」
ささやくように言い、目を閉じた。
「――――!!」
アナグマは彼に最期の時が訪れたのかと思った。
だが、まだそうではなかった。
わずかだが上掛けが上下している。
どうやら話し疲れて眠ってしまっただけらしい、と分かり安堵する。
しばらくしてレイテルたちが戻ってきた。




