9 隊長-2-
病棟を出たアナグマたちは、通りから離れた場所にある小さな建物に案内された。
一見すると古そうだが、頑丈な造りだ。
ひとつしかない入口には武装した男たちが立っている。
「規則ですので」
男のひとりが近づき、三人に手錠をかけた。
「またか……」
囚われの身に逆戻りになったダージはあてつけがましくつぶやいた。
しかしそこに嫌悪感はない。
まだ心を許せる連中ではないが、カイロウを保護し治療にあたってくれたという点においては、警戒心を解いてもよいのではないか……と三人は思い始めていた。
「こっちだ」
レイテルに促されて建物の中へ。
入ってすぐの一室に通されたアナグマたちは、先ほどと同じように尋問される恰好となった。
「質問はひとつだけだ」
が、この華々しい経歴を持つ男は言うべきことはすべて言った、という顔で切り出す。
「留まるか、今すぐ帰るか」
「無理やり連れてきておいて、ずいぶんな言い草だな」
「言葉が足りなかったな。しばらくならここに留まってもいい」
アナグマの指摘に彼はすぐに言葉を付け加えた。
「気の毒だがあの男は長くはあるまい。見送るまで滞在してもいい。ただ捕虜扱いだから自由は約束できない」
「縁起でもないことを言うな!」
キンケルが立ち上がり、キッとにらみつける。
アナグマもあやうくそうしかけたが、彼が実際に行動に移したことでかえって冷静になることができた。
「事実だ。言っただろう。うちの医療スタッフは優秀だ。最善を尽くしたんだ」
「そのことには感謝する。おかげで俺たちも隊長と話すことができた」
ダージはキンケルをなだめると、素直に謝意を述べた。
「もし本当に助からないなら――」
隊員を呼び、皆で見送りたいとアナグマは申し出た。
当然、レイテルは首を縦には振らない。
「それはできない。本来ならあの男を保護することも、お前たちを連れてきたことも許されていないんだ」
今回はあくまで例外的な措置だったと彼は強調する。
であれば考えるまでもなかった。
提案を受け入れるのは癪だし、完全に信用できる相手でもなかったが、カイロウのために何ができるか――を思えば答えはひとつしかない。
「――分かった」
レイテルは彼らの答えにうなずくと、手錠がしっかりかけられているかをチェックした。
「奥に部屋を用意しよう。この建物内なら自由にしてもらってかまわない。だが外に出るときは念のために手錠をかけて、見張りをつける。外に出るといっても、ここと病室の往復くらいだろうが」
そう言われてアナグマはようやく、この建物が捕虜を収容する施設だと気づく。
見回してみても飾り気のあるものは何ひとつ置いていない。
仕事場でもなければ人を招くような場所でもないから、あるのは必要最低限の家具だけだ。
しかしそれで問題はない。
彼らは観光に来たのではない。
ただ、余命わずかなカイロウの最期を看取るだけである。




