8 世界の真実-3-
長い話になる、とレイテルは水を差しだした。
だが三人はカップに口をつけるどころか、手にすることすらしない。
「まあ、当然か……」
レイテルはアナグマの前に置いたカップを手に取り、勢いよく呷った。
「お前たちに真実を教えてやる」
彼は取り巻きに持ってこさせた箱をテーブルの上に置いた。
両手で抱えてようやく運べるほどの大きな箱だ。
鍵をはずし、ふたに手をかける。
ゆっくりと開く箱の隙間から、うっすらと光が漏れ出た。
金色の、ほのかな光だ。
(なんだ……?)
アナグマはそっと覗き込んだ。
入っていたのは黄金に輝く丸い石だった。
全体は黄金色で、ところどころに濃淡がある。
輝きは一様ではなく、まるで中で液状の何かが絶えず流れているかのように光はうねって見えた。
「これは――?」
キンケルはその光に吸い込まれるような感覚に酔った。
地上を探索していると稀にこうした宝石を見つけることはあるが、この球体は彼がこれまで見たどの宝石よりも美しかった。
「マントルボールだ」
レイテルが言った。
「その反応だとやはり知らないようだな」
「…………」
すべてを見通したような口ぶりに、アナグマはむっとした。
「お前たちは調査団として地下と地上を行き来している――そうだろ?」
「ああ」
「では、そのさらに下に行ったことはあるか?」
「……下?」
「ずっと下だ」
アナグマは二人の顔を見た。
「下とはなんだ?」
ダージが問う。
「おれたちの世界にあるのは三層だけだ。ああ、いや、お上のいる層がもうひとつあるが」
キンケルが言うと、レイテルは小さく息を吐いた。
「お前たちは世界を知らない。真実も。何もかもだ」
つぶやき、マントルボールを憎々しげに見つめる。
「王族が住む層の真下に、もうひとつ層がある。より正確に言えば、ふたつに分けられた層だ」
「そんな話、聞いたことがない」
アナグマは反射的に否定していた。
やはりこの男は信用できない。
やることも言っていることも滅茶苦茶だ、と彼は思った。
「真実だ」
レイテルはきわめて冷静に返した。
「仮にそんな場所があるとして、どうして今まで誰もその存在に気づかなかった? そしてなぜお前がそれを知ってるんだ?」
挑むように問うアナグマに、彼はあえて目を逸らすようにして答える。
「王族たちのいる層からしかアクセスできないからだ。枢から伸びる道は、お前たちのいる三層とは重なることも交わることもない。気づかなくて当然だ」
「まさか……」
アナグマはまだ信じない。
理屈としては分かるが証拠がない。
今の時点ではこのレイテルという男の夢想と片付けることもできるのだ。
「それをなぜお前が知ってる?」
キンケルが訊いた。
「王族の元で働いていたことがある。警護兵長から財務官補佐、徴税官までいろいろやった」
「キャリアかよ……」
とてもそうは見えない、とダージがつぶやいた。
この男――レイテルはたしかに切れ者の空気をまとっている。
先ほど、衛兵が将軍と呼んでいたこともそれを裏付けていた。
剣術の腕もありそうである。
が、かなり若い。
(アナグマとそう変わらないよな……?)
ダージはふたりを見比べた。
どことなく雰囲気は似ている。
「監視官に就いていた時期があった。下の連中を見張るのが仕事だ」
「下というのはさっきお前が言った、枢の真下にある場所のことか?」
「そうだ。彼らは常に監視されている」
「彼ら……?」
「奴隷層――とでも言えばいいのか……マントルボールの採掘と精製に従事し……させられている人々だ」
「マントル、ボール……」
アナグマは改めてその球体をじっくりと眺めた。
美しい輝きだ。
さまざまに照り返す模様は脈打っているようで、彼はそこに生命の根源のようなものを感じた。
「オレが知る限り、下にいるのは何らかの重罪を犯したが死刑を免れた者と、その子どもだ。王たちは罪人を賤しい者とみなして、その血を受け継いでいる子孫もまた罪ありと考えているらしい」
「親が犯罪者だからって理由で虐げられるのか!?」
「奴らはそう考えているらしい。問題は彼らがこの星を滅ぼそうとしていることだ」
レイテルの目つきが変わった。
「ここから先は枢の住人でさえ一部の者しか知らない話だ」
変わったのは目つきだけではない。
「ちょっと待ってくれ。その前に――」
しぼり出すようにアナグマが言った。
「――なにか飲むものがほしい」




