7 秘密組織-1-
アナグマは長い時間をかけて、ひとつの思慮をした。
個人的な感情と、規則との妥協点を探す旅だ。
そう簡単に答えは見つからない。
見つかるハズがない。
彼に助言を与えてくれる人はここにはいないのだから。
だから彼は自由なハズだった。
この無鉄砲な若者をたしなめる者はいない。
規則を守れと口うるさく言う者はいない。
好きなようにやれ、と背中を押してくれる者もいない。
だから彼は自由だった。
自由だからこそ、何も決められなかった。
(オレはどうするべきなんだ……?)
王の言葉を思い出す。
”安全が確認できるまで、調査団および兵団の地上での活動を禁ずる”
日時は述べなかった。
禁止令がいつ敷かれるのかも、いつ解除されるのかも。
(安全が確認されるまで――?)
アナグマは笑った。
そんな日がくるハズがないのだ。
なぜから地上は危険な場所なのだから。
そうでないなら兵団の同行も必要ないし、死没者名簿などというものが調査団を巡ることもない。
「…………」
ゴモジュ隊は全員が死亡として扱われた。
彼らを捜索し、消息不明となった者たちは生死を保留とされている。
カイロウやその部下も同様だ。
しかし一定期間が過ぎれば、調査団の決まりに従って死没者として処理される。
禁止令が公布されれば、誰も地上に出られなくなる。
あとはカイロウたちが死没者名簿に登録されるのを、この地下世界で待つだけだ。
「そんなことが――」
あってはならない。
カイロウは恩人だ。
父の死後、我が子のように教え導いてくれた。
その恩にまだなにひとつ報いていない。
――ならば、やることはひとつだ。
アナグマは荷物をまとめて家を出た。
彼は基地に向かう前にネロの家を訪ねた。
「どうしたんだい、こんな朝早くに……って、いつものことか」
ネロは眠そうな声で言った。
が、そのわりには顔つきはしっかりしていて、寝起きのようには見えない。
「言っておこうと思ってな」
「なにを?」
「隊長を捜しに行く」
やっぱりそうか、という顔でネロは彼を見た。
「話は聞いてる。でも地上には出られないんじゃないのかい?」
「禁止令はまだ出てないんだ。でも出たら出られなくなる」
「危険だよ。そもそもゴモジュ隊の捜索にだって何隊も出たのに、戻ってきたのは半分ほどだよ? そのうえまた地上に行くなんて」
どうかしてる、とネロはあきれた様子だ。
「分かってる。だけどこのまま黙って見過ごせない」
「…………」
「ネロ、それで――」
「ついてきてくれ、と言いたいんだろう?」
アナグマは頷いた。
「無理だよ」
彼は即答した。
「前にカイロウ隊に入りたいって言ってたじゃないか」
「言ったし、入隊願も出した。でも受理されたワケじゃないし、ボクの希望は輜重なんだ。地上には出ない業務なんだよ」
「そうなのか……? じゃあどうして調査団に?」
「在庫係からステップアップしたかっただけさ。それに隊の所属なら待遇も良くなるし格好もつく。危険を冒したくないというのは今も変わらないよ」
アナグマは何も言えなくなった。
入隊する前はカイロウに認められたい一心で、これまでさんざん連れまわしてきた。
地上での収獲の手伝いを頼んだこともある。
それに対してろくに礼もできず、今また付き合ってくれとは言えない。
「分かった」
そう言い、彼は頭を下げた。
「今まですまなかった。オレの勝手に付き合わせてしまって悪かったな。反省してるよ」
「…………」
「隊長を連れ戻したら――今までの礼をさせてくれ。隊長にもネロの入隊を進言するよ」
今度はネロが何も言えなくなった。
彼としては協力したいという気持ちがないワケではない。
しかし命を懸けてまで、となると話は変わってくる。
そこまでする動機も覚悟も、ネロにはない。
「ああ、”待ってる”よ」
ひどくつらそうな顔で彼は言った。




