第14話 ~でも、僕は待っていたんだ、この瞬間を……ッ~
「まっ、全くの無傷なのか……っ」
絶望の色を含んだ隊長の声音が耳に届き、とっさにノイシュは眼を細めた――
――でも、僕は待っていたんだ、この瞬間を……ッ
次の刹那、朱幻竜の巨体がその両翼を激しく動かし始めるのにノイシュは気づいた。
その巨体が強く煌き出していく。既に幻竜は次なる行動に移っているのだろう――
――そんなこと、させない……っ
「――発現せよっ」
そう叫ぶとノイシュは剣先を下に構えた。再び朱幻竜へと視線を戻し、狙いを定る。
極限までに霊力を増幅させたため、身体中は熱く、燃えてしまいそうだった。
思わず意識を失いそうになるのを耐えながら、全身を使って一気に巨剣を振り上げた――
「衝撃剣【烈飆――】」
直後に地面から無数のひび割れが広がるのをノイシュは視認した。
次々と眼前で土壌や砂礫が破裂していく――
――まだっ、まだだ……っ
さらにノイシュは腰を大きく捻り、左足を軸にしてその場で一回転させた。
同時に剣の切っ先を素早く地表へと引き戻していく。
視界の先ではまだ刀身に霊力の輝きが残存していた――
「【――竜殺槍】ッ、いっけえぇェェ――ッ」
勢いのままノイシュは再び大剣を虚空に撥ね上げた。
瞬く間に再び烈風が現出し、足許の地面を深くえぐった。
次々と宙へと舞い上がっていく土塊や砂礫につられて視線を上げる。
そこでは岩石までもが大きく噴き上がり、やがれ左右に大きく断ち分かれていくのが分かった。
その光景が不可視であるはずの衝撃波を、あたかも一条の剣の様に浮かび上がらせている。
その上空では朱幻竜が未だその大翼を羽ばたかせ、さらにその奥で暗紅の悪魔がその両眼を大きく見開いていた――
――ミネア……ッ
次の瞬間、朱幻竜の巨体が激しい閃光を放っていくのにノイシュは気づいた。
やがて風切り音が周囲に響き、旋風が巻き起こる。間違いなく朱幻竜が巻き起こしているのだろう――
「――ギャアオァォォンッ」
突如として激しい咆吼が周囲に響き渡った。
直後、幻竜の巨体へと衝撃波の剣先が達するのをノイシュは視認した。
自らが放った不可視の槍は未だ土砂を激しく撒き散らしながら噴き上がっていき、さらにその巨躯へと刺し込まれていく。
幻竜の放つ輝きもまたその明度を強めていき、周囲を純白に染め上げていった――
――あっ、あれは……ッ
思わずノイシュは両眼を細めた。
刹那の後、幻竜の全身が白い輝きに包まれていく。
瞬く間に白き光が膨張し、突如として大きく爆ぜていった――
「――げっ、幻竜が……っ」
「やったぞ……ッ」
「生き残ったのッ、私達――」
周囲から湧き上がる仲間達の歓声を聞き、ノイシュは奥歯を噛み締めた。
どうやらみんな、無事らしい。
本当に良かった。
でも、まだだ。
未だ暗紅の悪魔は倒れていない――
――あっ、あれは……っ
すぐにノイシュは双眸を大きく見開く――
「――かっ、風がッ」
とっさにノイシュは叫び声を上げた。
視界の先では土石や断ち割れた灌木が吹き飛ばされている。
既に衝撃剣は消滅しているはずなのに。
そして、朱幻竜の発した烈風は消失するどころか、ますます激しくなって……ッ――
「――おっ、お義兄様ぁァァッァ……ッ」
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹かつエルンの義姉。魂吸収術という超高位秘術の使い手。通称『暗紅の悪魔』




