第15話 ~おっ、お義兄様ぁァァッァ……ッ~
「――おっ、お義兄様ぁァァッァ……ッ」
今までにない義妹の苦悶の声を聞き、ノイシュは顔を向けた。
そして思わず息を呑む。
激しくかぶりを振る彼女の全身は、血まみれだった。
その汗腺から、血が混じった汗を溢れさせている――
――エルンッ
思わずノイシュは義妹の許へと駆け寄り、強く彼女を抱きしめた。
僕達のために、こんなにも君が傷ついて――
「――ぐっ、これはっ……」
「――風がさらに吹き荒んでます……ッ」
「オレの結界から、絶対に離れるなッ――」
ヴァルテ小隊の仲間達からも焦燥と悲鳴じみた声が上がっていき、ノイシュは激しくかぶりを振った。
次第に風切り音が轟音へと変じていく。
視界の先では巨木の幹のほか、戦士の遺体や彼らの武具が宙に巻き上げられていった――
「おッ、お義兄ぃッ……アアィッアアッァッ――ッ」
さらなる義妹の絶叫が耳に届き、ノイシュは再び顔を向けた。
腕の中では血まみれの義妹が身体を痙攣させている。
それでも彼女は両掌を組み、なおも術を発現させ続けようとしていた。
見開いた瞳から溢れていく、血の涙――
「アアェアァッ、イヤアアッァあアァェッ――ッ」
朱幻竜の起こす轟音と 義妹の絶叫が、周囲に地獄の二重奏を奏でていく。
とっさにノイシュは両眼を奥歯を噛み締めた。
自分達の足許に広がる術の煌めきが、明らかに弱まっているのが分かった。
超高位秘術が、消滅する――
――エルン……ッ
無意識にノイシュは両眼を細めると、抱きしめる義妹の身体にいっそう力を込めた。
次の瞬間、直後に頭上で雷撃の様な音が耳に届いた。
とっさにノイシュが顔を上げると、眼前の光景に思わず息を吐いてしまう。
自分達を守っていた結界が、まるで硝子が砕ける様に弾けていく――
――ダメだっ、結界が崩れる……ッ
ノイシュがそう声を上げる間もなく、外界から嵐の様な風が吹き荒んでくる。
地鳴りの様な轟音は頭の中にまで揺さぶってきた。
否応なく恐怖心に煽られる。
烈風はますます大気を容赦なく掻き乱していく。
もうこちらは、呼吸すら上手くできない――
――何とかしなきゃ、どうすれば……っ
混乱しつつもノイシュは夢中で身を屈め、全身に力を込める。
気を抜けば、間違いなく朱幻竜が起こした嵐に吹飛ばされてしまう。
次第に自らの両膝が、地面に擦過痕を刻んでいく――
――ダメだっ、とても耐えきれない……ッ
次の瞬間、強い衝撃が脳内を駆け巡った。
瞬く間に頭部から激痛がはしる。
混乱と逡巡が駆けめぐり、ようやく飛来物が激突したと気づいた。
おそらく石礫か何かだろう――
――終わりなのっ……僕達……ッ
ノイシュは自らの意識が、少しずつ遠くなっていくのが分かった。
全身から力が抜けていき、そのまま地に倒れる。
次の瞬間、義妹の身体が宙に浮いていくのをとらえた――
――エル……そ……んな……っ
砂粒のように飛ばされていく義妹の姿を見ながら、ノイシュは自らの両瞼を閉じた。
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
マクミル・イゲル……ヴァルテ小隊の隊長。男性。ヴァル小隊の術戦士で、増強術という支援術の使い手
ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術耐性の持ち主
ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々な攻撃術の使い手
ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手
エルン・ルンハイト……ノイシュおよびミネアの義妹。術増幅という超高位秘術の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹かつエルンの義姉。魂吸収術という超高位秘術の使い手。通称『暗紅の悪魔』




