アンゴルモニカ・霊体の勇者4
「ちょぉぉ、えっ!?」
クラネスと遊んでいた霊体の勇者は、突如放たれた光の奔流に気付いてそちらに視線を向ける。
まさかの人間爆弾の勇者向けて放たれた一撃が彼に直撃した瞬間を目撃だった。
こいつと一緒に居れば安全だ。そう思った最後の仲間が消滅する。
「ウッソだろぉ。オイ……」
「これぞ神の思し召し! 見ていらっしゃいますかアンゴルモア様! 我等アンゴルモニカの民は邪神の勇者共を駆逐してやりましたぞ! あとはこの女狐のみ!!」
「ウゼェぞ狂信者! ああもう、揃いも揃って役立たずっ!? あたし一人じゃん生き残ってンの! どーすんのよバカ――――っ」
接近してきたクラネスの顎を蹴りつけ戦場から離脱する。
とにかく自分一人になってしまった以上は一時撤退は正解だろう。
この世界に紛れこんで細々と呪い殺しながら世界を破壊していくしかない。
なぁに、まだまだ人生は長いのだ。
多少遠回りしたところで問題は無い。要は自分が生き残り楽しめればそれでいいのである。
気に入らない敵を滅ぼし気に入った男を無理矢理襲い、好きな食べ物を金を払わず好きなだけ食べ好きな事をすれば自ずと世界を滅茶苦茶にできるのだから、ここは一旦この周辺から逃げ、別の国に向かってしまおう。
霊体の勇者はそうと決めると早速追手を撒きながら浮遊する。
やはり霊体が最強なのだ。
物理攻撃は当らないし、空を飛んで自由に逃げられる。
壁と同化すれば見つからないし、霊体を少し削れば消滅したように見せられるのだから、生存力は他の勇者に比べて遥かに高い。
他の国であればここほどの危険はないはずだ。たまたま超人共が手ぐすね引いている場所に来てしまったのだ。だから他の国なら霊体を滅ぼす力を持った個体など殆ど居ない筈。あとは追手が来る前に別の街、別の街へと逃げ、イタチごっこをしながら世界に混乱を招けばいいのだ。それが女神の勇者としての……
「霊体視・素環頭大刀」
「っ!?」
ゾクリ、霊体だというのに背筋が凍るような危機感を覚えた。慌てて逃げる霊体の勇者。
直ぐ横を、不可視の刃が通り過ぎる。
驚く霊体の勇者。その一撃は、確実に自分を殺す一撃だと、本能が警鐘を鳴らした。
「な、なん……」
「ようやく捕捉した。随分と幅広く逃げ回ってくれたものだな。姫への合流が遅くなったじゃないか」
すたり、何処からともなく地面へと降り立ったのは忍び装束の女。
冷血な瞳で霊体の勇者を射抜き、煩わしいという思いを隠そうともせずに舌打ちまでくれる。
「ただのスケスケ変態女じゃないか。なぜ皆取り逃すのか理解できん」
「なっ!? 変態じゃないしっ。なんかその言い回しだとスケスケな水着とか着てるみたいじゃないっ」
「身体が透けてるなら似たようなものだろう。刀の錆にもならん。さっさと黄泉路に送ってやる」
古めかしい刀を両手で構える女。ヤバいと慌てて逃げ出す霊体の勇者。
木をすり抜けた瞬間だった。
咄嗟に頭を下げたその真上を斬撃が通り過ぎる。
逃し遅れた髪の毛が数本切り裂かれ霊素に戻って消え去った。
「ちょぉ!?」
「魂が再生できなくなるまで細かく切り裂いてやる。霊体だからと逃げ切れると思うなよ。私は霊体特化型だ」
「げぇっ」
折角ここまで生き残ったのに一番危険な存在が来た。
霊体の勇者は思わず神を恨む。そしてふと気付いた。ここの神は自分達を排除するために動く存在で、自分の神と呼べる女神はクソ女神であった。
「神は死んだっ!」
「その思いだけは同感だ」
女は折角岩と同化し逃げようとした霊体の勇者を的確に攻撃して来る。
慌てて上に避けると、斬撃が岩を通過した。
「な、なんなのよ今の斬撃、なんかヤバい!?」
「言っただろう霊体特化だと。今のは霊体だけを切り裂く攻撃だ。物体など透過して貴様を切る」
「なっ!?」
「そして霊体視。万物の霊体を見る視界。ゆえに貴様が何処に隠れようとももはや逃げ場は無い」
「なんでそうあたし特化の人間がいんのよぉっ!?」
半泣きで必死に逃げ出す霊体の勇者。
しかし忍者は無慈悲に的確に彼女を追い詰める。
逃げる速度も追う速度には勝てず、差がどんどんと縮まって行く。
「終わりだっ」
「ひっ!?」
背後で聞こえた声に思わず振り向く。
真上から振り下ろされる剣に咄嗟に掌を開きやめてくれと差し出す。
ぼとり、霊体化した腕が切り裂かれ地面に落下した。
驚愕する霊体の勇者の目の前で自分の腕が霊素へと変わり消えていく。
「嫌……待って。あた、あたし心入れ替えるからっ。助け……」
「南無阿弥陀仏。新たな生を生きなさい」
命乞いをする霊体の勇者。それを、忍者、網走紅葉は良心など微塵も見せず無慈悲に断ち斬った。
「悪いが、他人の言葉は信用しないことにしているのでな。私に命乞いは通じない」
暗殺を終えた忍者が人知れず立ち去る。
二つに裂かれた霊体の勇者は、今度こそその存在全てを消滅させたのだった。




