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時を守りし守護神  作者: ぽっちゃり王子
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夕暮れに染まり始めた学園の並木道を、寮へと向かう生徒たちの波に混じって、信也と夏希は歩いていた。昼間の教室での騒動が嘘のように、今は静かな空気が二人の間に流れている。

夏希はちらりと横を歩く信也の横顔を伺い、意を決したように口を開いた。

「……ねえ、信也。さっき、どうして言い返したの?」

「……え?」

「普段の信也なら、あんな挑発、適当に聞き流して終わらせてたはずでしょ。神藤稔みたいな相手と揉めるなんて、入学初日からリスクが高すぎるわ」

信也は夏希と視線を合わせないよう、少し前を向いて歩き続けた。

「……イライラしてたんだよ。初日から説教食らって、腹が立ってただけだ」

「そんなことじゃないでしょ。……何か、あったの?」

夏希の鋭い指摘に、信也は言葉を飲み込んだ。

(言い返した理由は、そんな単純なものじゃない……)

心の中で呟く。神藤稔とは、今日が初対面ではない。

彼らがまだ幼い頃、有力者たちが集う華やかなパーティー会場で、何度も顔を合わせていた。当時は親同士の付き合いもあり、決して親友とは呼べないまでも、顔を合わせれば挨拶を交わす程度の「同級生」だったのだ。

松風家から姿を消し、落ちこぼれとして扱われることになった今の信也を、稔は「一族の恥さらし」と断定している。かつて同じ目線にいた人間からの蔑視。それが、信也のプライドを無意識のうちに刺激していたのかもしれない。

そんな記憶を胸の奥底にしまい込み、信也は努めて明るい声で誤魔化した。

「……悪い。ただ、ムカついたんだ。それだけだよ」

寮に到着すると、信也は入学式の配布資料で確認した部屋番号を目指した。寮長から鍵を受け取り、扉を開ける。

整理整頓された室内には、すでに信也の荷物が運び込まれていた。自分の荷物を整理し始めようと箱を開けたその時、ガチャリと扉が開いた。

「おっ、入ってるな。……ああ、今日から同室になる奴か。俺は橘 勇希だ、よろしくな」

現れたのは、教室で神藤に堂々と食ってかかっていたあの短髪の少年だった。

「あ、松風 信也だ。よろしく……って、お前、さっきの」

「ああ。神藤の野郎に文句言ったやつか。……まあ、お互い災難だな、あんなのとクラスが一緒で」

勇希は苦笑いしながら自分の荷物を置き、手際よく片付けを始めた。どうやら彼は見た目に反して几帳面な性格のようだ。

「とりあえず、先に荷物を整理しちまおうぜ。で、ベッドどうする? 上と下」

部屋を見回すと、そこには備え付けの二段ベッドがあった。勇希は自分の体格を確認し、また信也の方をじろりと見た。

「おい、松風。お前、身長低いな。俺の方が体格がいいし重いから、ここは俺が下でいいか? 上でお前が寝ろよ」

「ははっ、そりゃ助かるよ。確かに今の体重差だと、俺が下になると勇希が落ちてきた時に潰されそうだしな」

「おいおい、俺がそんなボロベッド壊す重戦車みたいな体格に見えるかよ」

軽口を叩き合えるような距離感に、信也は少しだけ肩の荷が下りるのを感じた。初日から散々だったが、少なくともルームメイトには恵まれたかもしれない。

「よし、終わったな。……なあ、そろそろ夕食の時間だろ? 食堂に行こうぜ」

勇希の誘いに、信也は大きく頷いた。

桐島家で葉子さんが用意してくれた美味しい朝食は確かに食べた。だが、入学式の緊張に始まり、教室での一悶着、そして吉田先生による恐怖の「指導室送り」まで、今日はあまりに濃厚で刺激的な一日だった。おかげで、たった数時間前の食事がずっと昔のことのように思えるほど、信也の腹は既にペコペコに空いていた。

「ああ、そうだな。朝はしっかり食べたはずなんだけど、今日一日があまりに濃すぎて、もう腹が減って力が出ないよ」

「ははっ、まあ魔術学校の初日だからな。色々ありすぎたし、体力も使うだろ。食堂の飯は美味いって評判だし、たらふく食って明日に備えようぜ」

勇希の屈託のない笑顔に、信也もつられて苦笑いを浮かべる。

「お前の守護神、『百目』だったな。どんな奴なんだ?」

「おっと、教えないぜ。これからの訓練で見せてやる。お前こそ、魔法は使えないって言ってたけど、剣術でどうやって戦うんだよ?」

「それは……見てのお楽しみ、かな」

二人は寮の廊下を歩きながら、互いの守護神やこれからの学園生活について、他愛のない会話を交わした。

神藤稔という厄介なクラスメイトの存在や、守護神を持たないというコンプレックス――そんな不安要素を抱えつつも、不思議と勇希となら、この波乱に満ちた学校生活も何とかやっていけるような気がしていた。

賑やかな食堂の喧騒が近づくにつれ、二人の足取りも自然と速まる。

信也にとっての新たな日常は、こうして一歩ずつ、確実に動き出していた。

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