6
新入生たちが教室に戻り、それぞれ指定された席についた頃。
ガラガラと音を立てて前方のドアが開き、信也を連行していったあのスーツ姿の男性が一人で戻ってきた。(※この時、信也はまだ別室で絶賛お説教中である)
教壇にドンと両手をついた男性は、鋭い視線で教室全体を見回すと、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「よし、全員席についたな。今日から1年間、お前たちの担任をすることになった吉田 翔太だ。ちなみに俺の守護神は『赤鬼』。規律を破るやつや、俺の言うことを聞かない不良は、文字通り鬼のようにシバき倒すからそのつもりでいろよ。……ま、1年間よろしくな」
ガハハと豪快に笑う吉田先生の言葉に、教室の空気がピリッと引き締まる。
「それじゃ、さっそくだが、出席番号の若いやつから順に自己紹介をしていけ。名前と、自分の『守護神』についてな。ほら、1番、立て」
先生の指示に従い、まず最初に立ち上がったのは夏希だった。彼女はすっと背筋を伸ばし、凛とした声で教室全体に響かせる。
「桐島 夏希です。私の守護神は『雪女』です。至らないところもあるかと思いますが、1年間よろしくお願いします」
夏希がペコリとお辞儀をした瞬間、教室の男子生徒たちが一斉に色めき立った。
「うおっ、めちゃくちゃ綺麗……!」
「今の見たか? 透明感やばいだろ、可愛い!」
「決めた、今日から彼女は俺の嫁だ!!」
などなど、男子たちからの熱烈な歓声が巻き起こる。(最後の一人は色々と気が早すぎるしおかしいが、今の夏希の耳には届いていない)。
続いて立ち上がったのは、先ほど教室で一悶着を起こしていた、あの茶髪の少年だった。彼はこれみよがしに前髪をかき上げ、周囲を完全に見下したような態度で語り出す。
「関東の有力者、神藤家の次期当主――神藤 稔だ。我が守護神は、気高き『水龍』おい、そこの庶民ども。分を弁えろよ? この僕に気安く話しかけるな。時間の無駄だからね」
鼻で笑うような傲慢な挨拶。しかし、その圧倒的な家柄と端正なルックスに、一部の女子生徒たちはすっかり目をハートにしていた。
「キャーッ! 神藤様、素敵!」
「こっち向いて神藤くん! 私の初めてを貰ってーっ!」
黄色い悲鳴のような歓声が上がる(これまた最後の一人はツッコミどころ満載だが、当の本人は当然のようにスルーしている)。
次に立ち上がったのは、神藤に激しく噛みついていた短髪の少年だ。彼はポケットに手を突っ込んだまま、ぶっきらぼうに言い放った。
「橘 勇希。守護神は『百目』だ。……あとな、あそこにいる実花は俺の『許嫁』だからな。お前ら男ども、絶対に手を出すんじゃねぇぞ? もし実花に変な虫がついたら、全員まとめて切り刻んでやるからな」
教室に物騒な脅し文句が響き渡り、男子生徒たちがヒッと首をすくめる。
そんな勇希に促されるようにして、隣で真っ赤になっておろおろしていたショートカットの少女が、震える声で立ち上がった。
「て、天童 実花ですぅ……! え、えっと、その、私のしゅごちん……っ、じゃなくて、守護神は『座敷わらし』でしゅ! 緊張して噛んじゃいました……っ。い、一年間、よろしくお願いしますぅ……!」
「――ぶっ! 萌え……ッ!!」
あまりのドジっ子&可憐な姿に、思わず一人の男子生徒が本音を漏らしてしまった。
その瞬間――**「ギロリッ!!」**と、地獄の底から響くような橘 勇希の殺気混じりの睨みが、その発言をした生徒の脳天を正確に突き刺す。
「ひぃっ、す、すいませんでしたぁっ!」
男子生徒が涙目で平謝りし、教室が奇妙な緊張感に包まれた、その時だった。
「す、すいません……! 遅れました……っ!」
ガラガラガラッ!! と、教室のドアが勢いよく開き、一人の男子生徒が肩で息をしながら飛び込んできた。
ボサボサの髪に、心なしかお疲れの表情。そう、入学式で大爆睡をかまし、式終了後に吉田先生によってそのまま「指導室」へと直行・連行され、ついさっきまでみっちりと恐怖のお説教を受けていた、我らが主人公・松風信也である。
教室中の視線が信也に集まる中、教壇の吉田先生が呆れたようにため息をつきながら、ひらひらと手を振った。
「おう、居眠り小僧。やっとお説教が終わったか。もう自己紹介の時間も終わりに近いんだ、細かい挨拶はいいから、とっとと自分の席に座れ」
「うぐっ……すみません……」
信也は教室の遠くから「だから言ったのに……」と言わんばかりの冷たい視線を送ってくる夏希から目をそらしながら、小さくなって自分の席へと這いずるように向かうのだった。
誤字脱字がありましたら感想にお書きください。




