4
桜の花びらが鮮やかに舞い散る並木道。信也と夏希は、新しい制服の感触を確かめるようにして、一歩一歩踏みしめながら歩いていた。
「なあ夏希。クラス替え、同じクラスになれてるといいよな」
信也がふと前を見つめたまま呟くと、夏希も少し恥ずかしそうに、だけど嬉しそうにこくりと頷いた。
「うん、そうだね。知り合いが誰もいないクラスだったらどうしようって、実はちょっと不安だったんだ。信也と同じクラスなら、お互い助け合えるし……そうなるといいな」
そんな他愛のない会話を交わしているうちに、二人の目の前に、威風堂々とした青龍魔術学校の巨大な正門が姿を現した。
「うわぁ……何これ、広すぎじゃない……?」
門をくぐった瞬間、夏希は思わず足を止め、圧倒されたように息を呑んだ。
信也もまた、目の前に広がる圧倒的なスケールの校内に呆然と立ち尽くす。
およそ学校の敷地とは思えないほど広大なその敷地内には、魔術の腕を競い合うための巨大な「闘技場」や、実践的な魔法を磨く「訓練所」、全校生徒が一度に集まれる荘厳な「大ホール」、そして世界の魔術知識が集まる巨大な「図書館」がそびえ立っている。一つの街が丸ごと収まっているかのような空間に、二人はただ圧倒されるばかりだった。
「……すごすぎるな。迷子にならないように気をつけないと。ほら、まずはあそこの掲示板でクラス分けを確認しようぜ」
信也に促され、二人は人だかりができている巨大な魔術掲示板へと向かった。
数多くの名前が並ぶ中、必死に自分たちの名前を探す。
「あ、信也! あったよ! ほら、ここ!」
「えっと……1年8組……松風信也、桐島夏希。――やった、同じクラスだ!」
念願叶って同じクラスになれたことに、二人は顔を見合わせて小さくハイタッチを交わした。少しだけ緊張が解けた二人は、期待を胸に1年8組の教室へと移動した。
しかし、教室の扉を開けた瞬間、そんなお祝いムードは一気に吹き飛んだ。
教室の奥から、ピリピリとした不穏な空気と、大声でのざわめきが伝わってきたのだ。
「――いい加減にしろ! 君は庶民の分際でありながら、魔術界の有力者である我が『神藤家』に楯突こうというのか!?」
人だかりの中心で叫んでいたのは、いかにも育ちの良さそうな、茶色の長髪を揺らす少年だった。彼は不快感を露わにしながら、目の前の相手をあざ笑うように見下ろしている。
対する相手は、ツンツンとした短髪の少年だ。彼は負けじと鋭い眼光で睨み返し、大声で怒鳴り散らした。
「るっせぇんだよ! 神藤家がなんだってんだ! 偉そうにふんぞり返りやがって、親の七光りの癖に調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「なっ……! 親の七光りだと……!? 無礼な!」
一触即発の空気が流れ、教室の温度が数度下がったかのように錯覚する。
その二人の激しい口論の間に、おろおろとした様子で割り込んできたのは、一人のショートカットの少女だった。彼女は泣き出しそうな顔で、短髪の少年の制服の袖を必死に引っ張っている。
「勇希、もうやめて……! 私なら大丈夫だから、お願いだからもう執着しないで!」
「けどよ、実花! こいつ、お前の大切な守護神のことをボロクソにバカにしたんだぞ!? 黙って見てられるかよ!」
勇希と呼ばれた少年は、悔しそうに拳を握りしめる。どうやら、茶髪の少年が実花という少女の守護神を侮辱したことが原因のようだった。
「気持ちは嬉しいよ。でも、本当に大丈夫だから……。入学早々、私のせいで神藤家みたいな大貴族に目をつけられるのなんて、絶対に嫌だよ……っ」
実花の悲痛な訴えに、勇希はぐっと言葉を詰まらせた。これ以上騒ぎを大きくすれば、実花にさらに迷惑がかかることは分かっている。
「……チッ、分かったよ」
勇希は大きく舌打ちをすると、茶髪の少年をこれでもかと睨みつけた。
「おい、お前との話はこれで終わりだ。これ以上実花に構うなよ」
そう言い捨てると、勇希は実花の肩を優しく押し、彼女を連れて自分たちの席へとついてしまった。後に残された茶髪の少年は、不愉快そうに髪をかき上げながら、鼻でフンと笑って自分の席へと戻っていく。
入り口の近くでその様子を一部始終見ていた信也と夏希は、顔を見合わせた。
「……入学初日から、なんだか波乱万丈なクラスになりそうだね……」
夏希が小声でポツリと呟く。
「ああ、全くだな。神藤家か……面倒なやつと同じクラスになっちまったもんだよ」
信也は苦笑いしながら、嵐が去った後の教室を進み、自分たちの席を探し始めた。魔術学校での生活は、思った以上に一筋縄ではいかない予感が、早くも漂い始めていた。
誤字脱字がありましたら感想にお書きください。




