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「おはようございます、葉子さん!」
バタバタと激しい音を立てて階段を駆け降りた信也は、キッチンに向かって元気よく声をかけた。
朝の光が差し込む台所で、エプロン姿の女性が優しく微笑みながら振り返る。
「あら、おはよう信也君。ずいぶんと慌てた様子だけど、ちゃんと起きられたみたいね」
信也に柔らかい声をかけたこの女性の名前は、桐島 葉子。
艶やかな髪を後ろで一つにまとめ、エプロンを完璧に着こなす彼女は、実年齢を聞けば誰もが耳を疑うほど、いまどきの20代でも十分に通用する若々しさと美貌の持ち主だった。
ちなみに、つい数分前に信也の部屋へ容赦ない怒声を響かせ、最終的に真っ赤な顔をして逃げ出していったあの少女――夏希の母親でもある。
――と、ここで唐突に人物紹介を入れている俺の名前は、松風 信也。一応、この物語の主人公をやらせてもらっている。
俺がこの桐島家にお世話になっているのには、ちょっとした訳がある。
数年前、俺はなぜか深い森の中で行き倒れていた。記憶も曖昧で凍えそうになっていた俺を、偶然通りかかって救い出してくれたのが、夏希の父親だったのだ。身寄りのない俺を不憫に思った彼らは、そのまま「うちに来なさい」と温かく桐島家に迎え入れてくれた。
恩人であるおじさんは現在、仕事で長期の出張中だが、葉子さんも夏希も、俺を本当の家族のように温かく見守ってくれている。
ちなみに、幼馴染の夏希とは同い年。そして今年から、二人揃って同じ「魔術学校」へ通うことになっていた。
「もう、お母さん聞いてよ! 信也のやつ、私が部屋にいるのにいきなり服脱ぎ出すんだから! 本当にデリカシーがないっていうか、信じられない!」
リビングのテーブルについた途端、先に席に座っていた夏希が、まだ少し赤みの残る顔を膨らませて母親に告げ口を始めた。
「まぁまぁ。信也君も入学式に遅刻しそうで焦っていたんでしょう? ほら、二人ともトーストが焼き上がるわよ。早く食べないと本当に遅れちゃうわ」
葉子さんはクスリと上品に笑いながら、焼き立てのパンと目玉焼きをテーブルに並べていく。
「うぅ……ごめん夏希、悪気はなかったんだって。ほら、魔術学校の初日から遅刻なんてしたら、どんな恐ろしいペナルティがあるか分からないだろ?」
「それはそうだけど……次やったら本当に怒るからね!」
そんな賑やかな朝食を大急ぎで平らげた二人は、葉子さんに「行ってきます!」と元気に挨拶をして家を飛び出した。
現在は、街路樹が美しく並ぶ通学路を、並んで魔術学校へと向かって歩いている。
「ねえ信也、いよいよだね。私たちが通う『青龍魔術学校』……緊張してきた?」
夏希が少しそわそわした様子で、制服のスカートの裾を気にしながら話しかけてきた。
「そりゃあな。日本に4つしかないっていう、あのエリート校だからな。まさか自分が受かるなんて、今でもちょっと夢みたいだよ」
そう、二人が目指している魔術学校は、この国において極めて特別で、神聖な機関だった。
日本国内には、四方の方角と四神の異名を持つ、わずか4校の魔術学校しか存在しない。
* **白虎魔術学校:** 広大な大自然に囲まれた、北海道の猛者たちが集う学校。
* **朱雀魔術学校:** 独自の魔術文化を色濃く残す、九州地方の学校。
* **玄武魔術学校:** 東海・近畿・中国・四国という広大なエリアの子供たちが通う、最大の規模を誇る学校。
そして――
* **青龍魔術学校:** 東北・関東・信州の精鋭たちが集まる、信也と夏希が春から籍を置く学校だ。
「何言ってるのよ。あんたのあの筆記試験の追い込み、凄かったじゃない。二人で合格できたんだから、胸張っていきなさいよね!」
夏希はそう言って、信也の背中をポンと力強く叩いた。
「いった……! 相変わらず力強いな、お前……。でも、ありがとな。よし、気合入れて行くか!」
桜の花びらが舞い散る中、二人は期待と少しの不安を胸に抱きながら、まだ見ぬ魔術の世界へと一歩を踏み出していった。
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