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時を守りし守護神  作者: ぽっちゃり王子
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学園側が定めた「1週間ダンジョン立ち入り禁止」の期間。生徒たちが地上での基礎鍛錬や座学に大人しく勤しむ中、信也の1週間は、過酷な死闘と孤独な修練の連続だった。

夜の闇に乗じて鉄扉をこじ開け、毎晩のように二階層の深淵へ潜る。

ゴブリン変異種との命を削るような戦闘。圧倒的な力の差に跳ね飛ばされ、全身を打ち付け、ボロボロになって寮の二段ベッドの上へ戻る。それでも、信也の足が止まることはなかった。

昼間も、信也の頭から「あの記憶」が離れることはなかった。

空き教室の隅、あるいは人目のない中庭。

信也は木剣を手に取り、ただひたすら素振りを繰り返していた。

(違う。もっと肩の力を抜き、重心を落とせ……)

脳裏に焼き付いた指輪の残留思念――あの世界のすべてを切り裂いた戦士の剣筋。その残滓を再現しようと、信也は自分の肉体を極限まで追い込む。魔術の位も、属性も関係ない。ただ一点、無駄を完全に削ぎ落とした「極致の剣」の軌道を、自分の筋肉と骨格に刻み込むために。

スッ……と、風を切り裂く微かな音。

信也の振るう木剣の軌道が、日を追うごとに洗練されていく。最初はただ力任せだった一閃が、まるで大気を鋭く断つような、鋭利な一筋の線へと変わり始めていた。

(もっとだ。あの変異種の防壁を一太刀で両断するには、まだ足りない……!)

自分の限界を塗り替え続ける信也の瞳には、かつての無力だった少年の面影は微塵もなかった。

そして、1週間の禁止期間が明け、ダンジョンの立ち入り制限が解除された初日の朝。

賑わう校舎の廊下に、冷ややかな、しかしどこか異様な静けさを伴う足音が響いた。

その中心にいたのは、神藤稔だった。

「おい、見たかよ……神藤の奴……」

「なんか、雰囲気変わりすぎてて近寄れなくないか……?」

すれ違う生徒たちが、怯えたようにパッと道を空ける。

一週間前の神藤は、プライドが高く、傲慢で、周囲を見下す華やかなエリートだった。しかし、今の彼は違っていた。

顔色は青白く、目の下には消えない隈が刻まれている。時折、周囲で突然大きな物音がしたり、冷たい風が吹き抜けたりするたびに、神藤の身体がビクリと激しく痙攣した。

二階層で遭遇したゴブリン変異種の圧倒的な暴力。一撃で砕かれた氷壁、そして死を覚悟したあの絶望の記憶が、彼の精神を深く蝕んでいたのだ。

心に消えないトラウマを刻み込まれた神藤は、かつての不敵な笑みを完全に失い、ただ怯えた野獣のような目で周囲を警戒しながら歩いていた。

(化け物……あんなの、魔術じゃない。ただの暴力だ……! 僕の氷なんて、一瞬で踏みにじられた……!)

自分の強さに絶対的な自信を持っていた神藤の世界は、あの地下二階層で完全に崩れ去っていた。

ふと、廊下の曲がり角で、神藤の視線が信也へと向けられた。

ボロボロの制服を着こみ、どこか落ち着いた足取りで歩いてくる信也。以前なら「無能のくせに」と吐き捨てていたはずの相手だ。

しかし、今の神藤の目に映った信也は、かつての嘲笑うべき対象ではなかった。

信也の纏う空気――日々の死闘と修練によって研ぎ澄まされた、鋭く静かな闘気。それは、恐怖に怯える神藤にとって、自分には到底持ち得ない「強者の気配」として直感的に伝わってしまった。

神藤は息を呑み、まるで怪物から目を逸らすように、怯えた表情で慌てて顔を背けた。

信也は、そんな神藤に一瞥もくれなかった。

彼の意識はすでに、放課後に迫った二階層の闇、そしてあの変異種との再戦に向けられていた。

((第15話へ続く))


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