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大野との激戦から一夜明けた教室。信也の身体は相変わらずボロボロだったが、クラスメイトたちが向ける視線は昨日までとは明らかに違っていた。もはや彼を「無能」と露骨に嘲笑う者はいない。ただ一人、前方の席で不機嫌そうに頬杖をつく神藤を除いては。
キーンコーンカーンコーン――。
朝のホームルーム。壇上に立った吉田先生が、ホログラムの立体地図を教壇に展開した。そこに映し出されたのは、学園の地下構造、そして日本、さらには世界地図の上に点在する不気味な光点だった。
「お前たちが普段、自主練などで使っている地下の演習場――通称『学園ダンジョン』だが、あれは国が管理・保有する人工的、かつ安全性の高い初心者向けの特殊な環境だ。だが、勘違いするな」
吉田先生の声音が一段と低くなる。
「管理されているとはいえ、そこは魔力の満ちる『迷宮』だ。稀にシステムが想定していない変異個体、あるいは上層に迷い込む高ランクの魔物――いわゆる『イレギュラー』が発生することがある。決して安全地帯ではない。そして、一歩この学園の外に目を向けば、世界はさらに過酷な現実に直面している」
吉田先生が世界地図の光点を指し示す。
「現在、日本国内だけでも富士の樹海、旧都の地下、さらには太平洋の孤島など、数十箇所に『天然の野生ダンジョン』が存在する。世界に目を向けば、数千、数万という規模だ。これらは学園のものとは違い、魔物のリスポーン速度も狂暴性も桁違いであり、中には一国を滅ぼしかねない未踏破の深層ダンジョンも存在する。世界各国の『探索者』たちが命を懸けて潜り、魔石や古代遺物を回収することで、現代の魔導技術や経済は成り立っている」
そこまで言って、吉田先生はホログラムを消し、生徒たちを鋭い目で見回した。
「傷つきながらも挑戦を続ける探索者だけが、その富と名誉を手にする。そして、その野生ダンジョンや、学園ダンジョンの不測の事態に挑むための第一歩として、この学園では本日より、本格的な『チーム(パーティ)結成』の申請を受け付ける。4人一組を基本とし、今後の実戦演習合や同任務はすべてこのチーム単位で行う。お前たちの属性や前衛・後衛のバランスを考え、最適な相棒を選べ」
教室内が一気にざわめき立つ。誰と組むか、誰が優秀な魔術師か、小声での品定めが始まった。
放課後。
信也がこれからの鍛錬について考えながら荷物をまとめていると、机の前に三つの影が立った。
「信也、ちょっといい?」
声をかけてきたのは夏希だった。その後ろには、いつも飄々とした笑みを浮かべる勇希と、少し緊張した面持ちの実花が立っている。
「夏希? どうしたんだ」
「どうしたんだ、じゃないよ。チーム結成のこと。……私、信也と組みたい」
夏希のまっすぐな瞳が信也を射抜く。
「昨日の大野くんとの試合、見てたよ。信也の動き、本当に凄かった。魔術が使えないなんて関係ないって、あの動きが証明してた。私、まだ中級魔術までしか使えないけど……信也の前衛なら、背中を預けて落ち着いて呪式を構築できると思うの。いつか高等魔術を扱えるようになるためにも、私は信也の剣が必要」
「俺も賛成だな」
勇希が肩をすくめながら笑う。
「寮の二段ベッドの下から、上でお前が毎晩ボロボロになって悶絶してるのを見てたけどさ。昨日の戦いはシビれたよ。俺の土魔術で足場をコントロールしてお前の突進力をサポートすれば、面白いコンビになると思わないか?」
「私、私は……治癒魔術しか、あんまり得意じゃない、けど……っ」
実花が拳を握りしめ、一歩前に出た。
「信也くんが毎日、傷だらけになって頑張ってるの、知ってます。だから、信也くんがどれだけ無茶しても、私が絶対に死なせないくらい回復します……! だから、一緒に組ませてください!」
三人の言葉が、信也の胸に熱く響いた。
一人で地下に潜り、孤独にあの変異種――まさに学園のシステムすら把握していないであろう「イレギュラー」と死線を彷徨っていた日々。神藤たちから疎外され、別の世界に取り残されたような感覚。だが、彼らは信也の「剣」を認め、ここに集まってくれたのだ。
「……ありがとな、みんな」
信也の口元に、自然と確かな笑みがこぼれた。
「俺は魔術が使えない。足手まといになるかもしれない。……だけど、前衛なら、誰よりも早く敵の懐に踏み込んで、道を開いてみせる。よろしく頼む」
信也、夏希、勇希、実花。
後に学園の歴史を塗り替えることになる、最も異質で最も強固な4人のチームが、ここに結成された。




