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翌朝、闘技場に集まった新入生たちは、昨日とは違う緊張感に包まれていた。
広大な闘技場の空気が張り詰める中、担任の吉田がニヤリと笑って告げた。
「実技演習を始める。今日は実戦形式だ。ペアは俺が決める。……松風、神藤。お前らがやれ」
指名された瞬間、教室内のようなざわめきが闘技場に広がった。
神藤稔は優雅に歩み出て、ふんと鼻を鳴らす。
「やれやれ。よりによってこの『無能』と組ませるのか。手加減という言葉は知らないからな、覚悟しておけよ」
対する信也は、表情を変えずに木剣を構える。
「……神藤。お前のその傲慢さ、剣の道には一番不要なものだぞ」
「宣戦布告か。いいだろう、沈めてやる!」
闘技場の熱気は、実戦演習という名目でさらに過熱していた。
「始め!」
担任の吉田先生の声が響く。神藤稔は鼻で笑い、優雅な動作で右手を信也へと向けた。その手には魔力が収束し、周囲の空気が湿り気を帯び始める。
「見ていろ、松風。これが『選ばれし者』の力だ。水よ、我が意に従え。激流の牙となりて、愚かなる者を飲み込め――『水牙』!」
神藤が叫ぶと同時に、彼の手から渦巻く水の奔流が猛獣のような形となって信也へと襲い掛かった。信也は瞬時に木剣を握り直し、紙一重の差でそれを回避する。床に叩きつけられた水牙が激しい飛沫を上げ、闘技場の地面を削った。
「くっ……!」
信也はすぐさま距離を詰めようと駆け出す。魔術師の懐に入れば勝機はある。しかし、神藤はニヤリと口角を吊り上げ、逃げも隠れもしない。
「甘いな。僕の魔術は、そんな近接攻撃だけでどうにかなる代物じゃないんだよ。水よ、我が意に従え。渦巻く潮流、其れは無数の刃となりて敵を裁け――『水刃連弾』!」
神藤の詠唱と共に、周囲の空中に何十もの鋭利な水の刃が出現した。逃げ場はない。信也は必死に木剣で防ごうとするが、次々と襲い来る水刃は容赦なく彼を追い詰める。
「うおおおっ!」
信也は気迫でそれらを弾き飛ばすが、一発、また一発と確実に身体を捉え始める。最後の一撃が信也の肩を抉り、彼はバランスを崩して闘技場の床に叩きつけられた。木剣は遠くに転がり、神藤の放った水塊が、信也の首元でピタリと止まる。
「……勝負あり。勝者、神藤稔」
吉田先生の声が冷徹に告げられた。神藤は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、信也を見下ろす。
「はっ、剣術なんていう時代遅れの芸で、魔術に勝てると思ったか? 勘違いも甚だしいな、落ちこぼれ」
信也は肩の痛みと、己の無力感に奥歯を噛みしめた。木剣では、魔術という圧倒的な力には届かないのか。悔しさが胸を焼く。
闘技場の空気が少し落ち着いたところで、吉田先生が教壇へ生徒たちを呼び戻した。
「……良いか。今日の演習で分かった通り、魔術と肉体の間には確実な壁がある。だが、それを超える場所がこの学校には存在する。……学園地下に広がる『ダンジョン』だ」
吉田先生の言葉に、生徒たちの顔色が引き締まる。
「この学園の地下には、魔力が濃密に集まって具現化した迷宮が存在する。そこには『迷宮守護神』が住み着いており、倒すことで魔力を効率よく吸収し、己の属性を極めることができる。だが、単なる訓練場と思うな。そこは命を賭けた戦場だ。……魔術師として名を上げたいなら、必ず攻略せねばならん場所だ」
ダンジョン。その言葉が、信也の心に重く響いた。自分の道は、魔術か、あるいはその迷宮の深淵にあるのかもしれない。
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闘技場の興奮と、生徒たちの期待と不安が交錯するその喧騒から、遠く離れた場所。
暗く、深く、光すら届かない世界の狭間に、それは在った。
古びた金属の輪――特殊な指輪。
2000年前の「古代戦争」で役割を終え、12の神獣の封印場所を記憶したまま、深い闇に飲まれていた遺物。
指輪は、静かに待っていた。
2000年もの間、人々の記憶から消え去り、漆黒の中で溜め息のような魔力を微かに放ちながら、次の「主」を渇望している。
(……ようやくか)
指輪の意思は、闇の中で独り言のように震える。
迷宮から漏れ出す魔力の波紋と、闘技場で繰り広げられた少年たちのぶつかり合い。その微細な揺らぎが、長い眠りについていた封印を揺り動かした。
指輪は確信していた。
世界が再び歪み始めていることを。そして、自分を再び指にはめる者が、すぐ近くまで来ていることを。
自分を嵌める者の運命が、血塗られたものになるか、あるいは世界を救うのか――そんなことはどうでもいい。ただ、再びあの熱い魔力を、指を通した脈動を感じたい。
指輪は、ただじっと待っている。
次の主が、自分を見つけ出し、再び終わりのない戦いの歴史を刻み始めるその瞬間を。
深い闇の中で、鈍い金色の光が、獲物を狙う獣のように小さく瞬いた。




