同盟と陽動、ときどき船山登る
プルチーノ公国は、カトゥル帝国の宰相であるリュカを捕らえたことで、カトゥル帝国の士気は大いに下がったと考えた。だが、実際は逆であった。カトゥル帝国はリュカが捕虜になったことで、一層対プルチーノ姿勢を硬化させた。
「帝国の宰相を捕らえるとは、遺憾なり。」
「我が国の国威を見せつけてくれよう。」
これには、リュカ無きいま、反リュカ派の手でこの戦争を勝利に導き、リュカから国政の壟断を取り戻そうとする動きである。
むしろ、議会の親リュカ派が、リュカの身を案じて、和睦交渉に乗り気であった。
「宰相閣下の救出は必要です。」
「もちろんです。」
「異論ありません。」
「では講和を。」
「それは反対です。」
「交換条件を。」
「それも反対です。」
「救出部隊を。」
「戦力がありません。」
「ではどうする。」
「……。」
全員がリュカ救出に表向きは同意するものの、具体的な行動には至らなかった。
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そんな中、マリーは一人旅支度を済ませていた。
「こんな時にどこへ行くの!?」とリルが尋ねる。
「ああ、故郷へ用事ができたのよ。」
「なんで今…」とヘレナ。
「今は再考してもらえませんか?」とリゼ皇女も引き止める。
「悪いね。皇女殿下。今回ばかりは無理。」
そういうと、マリーはどこへともなく行ってしまった。
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ヘレナは、ケガをおして、リュカ救出のために独自にプルチーノ公国と交渉した。有職故実に詳しいヘレナの実家ロレンソ家は、しばしば各国大使から頼られていた。どうすれば、外交的正当性をしめせるのか―複雑な貴族政の慣例の中で、外交儀礼は形式を間違えると無効化することもある。どうすれば、相手国の面子をつぶさずに済むのか―カトゥル帝国を怒らせ、軍事侵略を招く必要はどこにもない。密約や交渉の窓口-先例や慣例が交渉の潤滑油となる。政治的駆け引き―特定の儀礼を扱う人間が交渉カードとなる。
しかし、戦勝国気分のプルチーノ側はまともに交渉しようとする気がないようにみえる。そうして、マリーが出て行って1ヶ月は経っただろうか?カトゥル帝国と西で国境を接する神聖帝国から、親書が届いた。
「貴国は今、プルチーノ公国との戦争にせわしいと聞く。ついては、わが国も、東のミスティア、アーメル、マイランを攻めるのに忙しい。お互いに防禦同盟を結んではいかがか?」
これはカトゥル帝国にとり、渡りに船である。だが、長年カトゥル帝国の土地を侵略してきた神聖帝国の言である。皆疑うのは当然であった。
「ふむ、カルロ、これいかがする?」
「帝国は、信頼にあたりませぬ。拒否するのが正答かと。」
「わかった。明日の五相会議はそのように取り計らおう。」
はい。そうして、開かれた五相会議は暗澹たる空気が流れていた。
まず、陸軍のパンチが、空軍戦力の不在と、陸上戦力の無力化を嘆いた。
海相のコーラルは、河川なら遡れるが、陸路は無理だとして、やはり無策を嘆いた。
財相のダンドロは、莫大な戦費にかかる財政面での負担を嘆いた。
最後の外相モンケも、リュカ救出を説いた。
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「これで、戦争も終わらざるを得まい。わかった、すぐにプルチーノと講和しよう。さて、次は神聖帝国からの同盟の件だが…」
「いまなんと?」とモンケ。「だから、神聖帝国から同盟の誘いが来ておる。」
「お待ちください。」モンケは頭の中で計算する。
「神聖帝国側の援軍が来るのですか?」「いや、防禦同盟とのことだ。」
「ああ、それなら。」とモンケは顎をくいっと動かす。
「陸相、海相、現在西方の守備部隊を戦役に回すとしたら、勝てますか?」
「勝てはしないが、負けもしない。」とパンチは、消極的に答える。
「おそらく、勝つでしょう。」となぜかコーラルは余裕そうだ。
「コーラル殿、なぜそんなことが言える?」とパンチ。「まあ、なあにそれは後でのおたのしみで…」コーラルは、ほっほと笑う。
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その頃、ヘレナ邸では、ある人物とプルチーノの使節が密談をしていた。女性の名前はリル。宮廷メイド長で、リュカの先輩である。
「では、あなた方はファドーとレンゾを攻めると。」
「そうです。」とリルは静かに頷く。
「ファドーは穀倉地帯。レンゾは商業地域。プルチーノにとって、ドル箱も同然の地。そこを狙うのは当然では?」
「わかった。では、カトゥルの軍を破ったあとはどうすればいい?」
「それは、言わずもがな。両地はカトゥル帝国の首都・リンベルに最も近い。丸裸になった首都を爆撃なさい。さすれば、カトゥルの戦意は挫かれるわ。そのかわり、リュカと私の亡命を許してちょうだい。」
「わかったぜ。」
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リュカは、軟禁状態にある間もプルチーノの王室図書館に通っていた。なるほど、カトゥル帝国にはない数々の蔵書がある。リュカはそれらをむさぼり読んで、知識を蓄えた。
そんななか、リュカは衝撃の事実を知らされる。なんと、リルが母国を裏切り、リュカと自身の身の安全と引き換えに、プルチーノへ内通したというのだ。「あの、先輩が…?いったいどうして?」考えられるのは、リュカの身を案じてのことにちがいない、とリュカは直感した。しかし、あのリルが裏切るとは…いくら、僕が虜囚の身の上だからと言って、飛躍しすぎではないかと内心非難した。
ファドーでは、ピシー家のリルの父・ハリー・ピシーと、ロレンソ家のヘレナの兄・マッシマ・ロレンソ、というリュカ派の第一人者が司令官に就いた。そのため周囲は皆、「帝によるリュカ派のお払い箱。」と噂した。
「この戦、負けたらどうする?」というハリー。だが、マッシマは気楽そうだ。「万が一になったら、逃げる手もありだぞ」と冗談めかして言う。
「て、敵襲!」
ファドーの地に、プルチーノ軍が駆けつけ、干戈が交わる。
「皆、落ち着いて戦え!」とハリー。マッシマは、「皆怯えるな!」と激励する。
晴天が斜面を照らす中、盾はぶつかり合い、兵たちは幾度となく押し返される。敵の空軍は、投石と突撃を繰り返す。ハリーとマッシモは叫び続けて鼓舞し、兵士たちはそれに応えるかのように槍を持つ手を握り直し、弓を構える手を緩めない。敵の矢は頭上をかすめ、騎兵の陣形は突進してくるプルチーノ軍を必死で受け止めている。
そんななか、新手が現れる。そこには、陸の孤島に現れるはずのない。南国・ランドゴン王国の軍船であった。
「なぜ、敵海軍が?!」
クシイナダ姫が、軍船から出てきて、下知する。
「新兵器よーい。うてえ!」
プルチーノ軍は、南国の火砲の餌食になっていく。




