完璧なスキル回しと、デスソースの敗北者たち
「「「学園祭の大成功に、乾杯ーーっ!!」」」
駅前の大型焼肉チェーン店。貸し切り状態の座敷席に、クラス全員の歓声が響き渡った。
過去最高益を叩き出した俺たちのクラスは、その売上を全額ぶち込んで、一番高い「食べ放題・特上コース」の打ち上げを開催していた。
「おい天城! お前、今日は喫茶店でも劇でもオイシイとこ全部持ってったからな! 罰としてお前は肉焼き係だ!」
「絶対に焦がすなよ! 最高の状態で俺たちの皿に配給しろ!」
劇で出番を失った勇者役と魔王役の男子が、恨めしそうにトングを押し付けてくる。
俺は「はいはい」と苦笑いしながら、ロースターの前に陣取った。
(……肉を焼く係。これなら目立たずに、平和にやり過ごせるな)
俺はトングを握りしめ、目の前の網と向き合った。
(よし。100年の野営で培った、食材のポテンシャルを極限まで引き出す『完璧なスキル回し』を見せてやる。まずは網の温度分布を魔力で把握。強火エリアで表面を1.5秒焼き、肉汁を閉じ込めた瞬間に弱火エリアへスライド……!)
俺の手が、残像を残して動き始めた。
牛タン、カルビ、ロース。それぞれの厚みと脂の量に合わせて、ひっくり返すタイミングを0.1秒単位で管理する。俺の頭の中では、まるで高難易度レイドボスの攻撃パターンを捌くような、完璧なタイムラインが構築されていた。
「ほら、焼けたぞ。最高の状態だ」
俺が次々と皿に配給した肉を、男子たちが口に放り込む。
その瞬間。
「……ッ!? な、なんだこれぇぇぇっ!?」
「美味すぎる! 肉汁が爆弾みたいに弾けたぞ!? しかも、なんか体の底から力が湧き上がってくるぅぅっ!!」
俺の完璧な火入れにより『極上のバフ効果』を付与された肉を食べた男子たちが、謎のオーラを纏いながら覚醒し始めた。
「天城……お前、肉焼きの神かよ……!」と拝み始めるクラスメイトたちをよそに、俺は無心で次の肉を網に並べていく。
しかし、俺が肉を焼くのに集中しすぎていると、両隣と正面の席をガッチリとキープしていた三大女神たちが黙っていなかった。
「ちょっと天城くん! みんなの分ばっかり焼いてないで、自分も食べなきゃダメじゃん! ほら、アタシが焼いた特上カルビ、あーん♪」
「星野さん、脂っこいものばかりでは胃がもたれるわ。天城くん、私のネギ塩タンをどうぞ。あーん」
「あ、あのっ……お肉ばっかりじゃなくて、お野菜も……サンチュで巻きましたっ。あ、あーん……ですっ!」
右からリカ、左からナギサ、正面から詩織ちゃん。
三方向からの怒涛の「あーん」攻撃。クラス全員の注目が集まる中、俺は逃げ場を失い、次々と口に放り込まれる肉を咀嚼するしかなかった。
「……おい、見たかよ。あの三大女神が、天城一人に餌付けしてるぞ」
「あぁ……。俺たち、劇の村人Aに嫉妬してたけどさ。あれ、完全に『主人公』の扱いだよな……」
「なんかもう、次元が違いすぎて嫉妬する気も起きねぇ。天城、お前もうあいつら全員と幸せになれよ……」
俺の神がかったトング捌き(と恩恵)を前に、男子たちは完全に白旗を揚げ、後方で腕を組んで見守る『保護者目線のモブ』へとクラスチェンジを果たしていた。
◆
だが、そんな平和な空気をぶち壊そうとする二人の影があった。
勇者役と魔王役の男子だ。劇を崩壊させられた彼らの個人的な恨みは、まだ消えていなかった。
「へへっ……天城のやつ、いい気になりやがって。俺たちがドンキで買ってきた、この『致死量レベルの超激辛デスソース』をタレに混ぜてやる……」
「これで天城が火を吹いて泣き叫ぶダサい姿を、女神たちに見せつけてやるぜ!」
二人は俺の背後に忍び寄り、俺のタレ皿に真っ赤なデスソースをドバドバと注ぎ込んだ。
「おーい天城! この肉、特別なタレで食ってみろよ!」
「お、おう。サンキュー」
何も疑わずに、俺はその真っ赤なタレに肉をたっぷりつけて、口に放り込んだ。
二人の男子が「いっけぇぇぇ!!」と心の中でガッツポーズを決める。
――しかし。
「……ん?」
俺は普通に肉をモグモグと噛み砕き、ゴクリと飲み込んだ。
「おっ、このタレ、ピリッとして美味しいね。少し酸味があって肉の脂とよく合うよ」
(……ちょっと辛いけど、魔大陸で主食にしてた『猛毒アシッドスパイダーの溶解液』に比べたら、全然マイルドでフルーティーだな)
100年のサバイバルであらゆる劇毒と魔物の肉を喰破ってきた俺の鉄の胃袋とバグった味覚には、市販のデスソースなど「ちょっとしたスパイス」でしかなかったのだ。
「「……はぁっ!?」」
勇者と魔王が、信じられないものを見るような目で俺を見つめる。
「嘘だろ!? あれ、一滴で舌が麻痺するヤツだぞ!?」
「お、俺にも一口食わせてみろ!」
パニックになった二人が、確認のために残っていたデスソース付きの肉を自らの口に放り込んだ。
数秒後。
「「ッッッッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?(声にならない絶叫)」」
二人の男子は顔を真っ赤、いや、赤紫色に染め上げ、目から滝のような涙を流しながら、店内のドリンクバーに向かって凄まじい速度で這って逃げていった。
「……何やってるんだろうな、あいつら」
「さぁ? それより天城くん、次はアタシの焼いたロース食べて! あーん!」
「天城くん、次はハラミよ。あーん」
自爆して火を吹く男子たちを背景に、俺は再びヒロインたちの「あーん」のループへと飲み込まれていく。
学園祭という大舞台を乗り越え、クラスメイトたちにも「なんか天城ってすげぇ奴」と謎の認知をされ始めた俺の日常は、ますます賑やかに、そしてカオスに彩られていくのだった。




