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台本崩壊!村人Aと世界を救う女神たち

波乱に満ちた『メイド&執事喫茶』の営業が終了した。

 結果は……圧倒的な大成功だった。

 学園の三大女神による神接客と、俺の常識を置き去りにしたステルス音速給仕によって、客の回転率は限界を突破。なんと過去数年間の学園祭の記録を塗り替える、ぶっちぎりの最高益を叩き出してしまったのだ。


「やったね! 過去最高額だって! 天城くんのオムライスと見えない配膳のおかげじゃん!」

「ええ。私たちの連携の勝利ね。この利益で、打ち上げは最高級の焼肉に行きましょう」


リカとナギサがハイタッチをして喜んでいる。

 だが、休む暇もなく夕闇が迫り、ついに全校生徒が注目する体育館の特設ステージの時間がやってきた。


俺の役は、舞台の端でひたすらホウキで床を掃き続けるだけの『村人A』。

 (よし。喫茶店は目立ちすぎたが、劇なら大丈夫だ。ただ黙ってホウキを動かしていればいいんだからな)

 俺は深く息を吐き、幕が上がるのを待った。



「――フハハハッ! この世界は我ら魔王軍が支配した!!」


大音量のBGMと共に、見事な魔王の衣装を着たクラスの男子が舞台の中央に躍り出た。

 本来の台本なら、ここで『勇者』が立ち向かい、彼がピンチに陥ったところでヒロインたちが覚醒する……という流れだったはずだ。


「魔王、覚悟しろっ!」

 勇者役の男子が剣を構えて飛び出す。

 だが、その瞬間。


「キャーッ! 怖い! 村人Aさん、アタシを守って!!」


姫役のリカが、なんと勇者を完全にスルーして、舞台の端でホウキを掃いていた俺の背後に回り込み、ギュッと抱きついてきた。


「えっ? 姫!? ちょ、そこは勇者の後ろに隠れるところだろ!」

「うるさい! アタシは勇者より、この無口でミステリアスな村人Aさんに守られたいの!」


リカの完全なアドリブに、舞台上がざわめく。勇者役の男子が「えぇっ……?」と剣を構えたままフリーズしていると、今度は女騎士役のナギサが進み出た。


「姫の言う通りよ! 私のこの剣は、世界のためでも勇者のためでもない。……この気高き村人A殿をお守りするためにこそ振るうもの!!」


ナギサは勇者に背を向け、なぜか俺の前に立って魔王を睨みつける。


「あ、あのっ……! 聖なる光よ、村人Aさんに……無限の加護を……っ!!」


さらに聖女役の詩織ちゃんまでもが、勇者ではなく俺に向かって(ガチの祈りを込めた)回復魔法のポーズを取り始めた。


……台本が、完全に崩壊していた。

 ヒロインたちの「天城カイトのカッコよさを全校生徒に見せつけたい」という無自覚な欲望と愛の暴走により、主役であるはずの勇者が完全に空気と化している。


(お前らぁぁぁっ! 劇でも俺を隠れ蓑にするな! 俺はただの村人だぞ!)


俺がホウキを握りしめて冷や汗を流していると、魔王役の男子が目に涙を浮かべながら、アドリブでなんとか劇を進行させようと声を張り上げた。


「お、おのれ村人Aめ……! ならば、お前から血祭りにあげてやるわぁぁっ!!」


ヤケクソになった魔王が、巨大なウレタン製の魔剣を振りかぶって俺に突進してくる。

 俺は溜息をついた。

 (……仕方ない。ここで俺がやられたら、リカたちが舞台上でマジギレして劇が終わらなくなる。少しだけ……派手な『演出』で終わらせるか)


俺は、手に持っていたホウキの柄に、極微量の『光魔法』を流し込んだ。

 そして、突進してくる魔王に向かって、ホウキを軽く一閃する。


――カァァァァァッ!!!


体育館の照明設備がショートしたかのような、目も眩むような極光が舞台上を包み込んだ。

 ホウキから放たれた光の斬撃は、まるで本物のレーザービームのように体育館の天井を照らし出し、魔王(ウレタンの剣)を優しく吹き飛ばした。


「ぐ、ぐわぁぁぁぁっ……! まさか、ただの村人Aが……伝説の光の力を……ガクッ」


魔王は見事な受け身を取って倒れ込んだ。


静まり返る体育館。

 全校生徒が「えっ? 今の光、照明の演出!? すげぇ!!」と息を呑む中。

 リカ、ナギサ、詩織ちゃんの三人が、光り輝く俺の周りに集まってきた。


「見たでしょ! これがアタシたちの村人Aさんの本当の力だよ!!」

「ええ! 私たちは、彼と共にこの世界に平和をもたらしたのよ!」

「村人Aさんっ……! 私たちと、ずっと一緒にいてくださいっ……!」


……おい。

 いつの間にか、ただの村人Aが、ヒロインたちと共に世界を救った最強の英雄という着地点にすり替わっている。


体育館は一瞬の静寂の後、「うおおおおぉぉぉっ!!」「村人Aカッコいいぃぃっ!!」という、割れんばかりのスタンディングオベーションに包まれた。


幕が下りる中、舞台の袖には、出番を完全に奪われて膝から崩れ落ちる勇者役の男子と。

 超高画質の8Kカメラを回しながら、「素晴らしい……。カイト様の英雄譚の第一幕として、完璧な仕上がりです」と妖しく微笑む凛さんの姿があった。


俺のささやかな「平和なモブライフ」への抵抗は、学園祭という熱狂と、彼女たちの重すぎる愛の前に、今日も儚く散っていくのだった。

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