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見えない執事と、冷徹秘書の完璧な接客

雲一つない秋晴れの空の下、ついに我が校の学園祭が幕を開けた。

 俺たちのクラスの出し物『メイド&執事喫茶』は、開店と同時に異常な熱気に包まれていた。


「いらっしゃいませっ! ご主人様!」

「お帰りなさいませ。お席へご案内するわ」

「あ、あのっ……こちらへどうぞ、ですっ!」


『わがまま姫メイド』のリカ、『凛々しい騎士メイド』のナギサ、『献身的な聖女メイド』の詩織ちゃん。

 学園の三大女神がそれぞれのコンセプトに合わせた特注のメイド服でお出迎えするとあって、教室の前には他校の男子生徒まで巻き込んだ長蛇の列ができていた。


一方、俺は厨房の奥でひたすらオムライスを作り続ける予定だったのだが。


「天城! ホールが回らねぇ! お前もちょっと接客手伝ってくれ!」

「えっ、俺は裏方専属じゃ……」


クラスの男子に背中を押され、俺はホールへと押し出されてしまった。

 ちなみに俺の服装は、ナギサがどこからか調達してきた『超高級ブランドの特注執事服』だ。仕立てが良すぎて、逆にただならぬオーラを放ってしまっている。


(マズい。このままじゃ目立ってしまう。……よし、100年の野営で極めた『隠密スキル(気配遮断)』を全開にして、空気のように接客しよう)


俺は完全に気配を消し、ホールへと溶け込んだ。

 ――数分後。


「あれ? 落としたフォークが……いつの間にか新しいのに変わってる?」

「すいません、お水を……えっ!? 頼む前にグラスが満たされたぞ!?」


俺の動きは、完全に常人の動体視力を置き去りにしていた。

 客が「水が欲しい」と思った瞬間には背後に立ち、音もなく注いで離脱。あまりにも見えなすぎる(ステルスすぎる)ため、客の視点からは『空飛ぶピッチャーから勝手に水が注がれる』という超常現象にしか見えなくなっていた。


「ひぃぃっ! ポ、ポルターガイストだぁぁ!」


店内がパニックになりかけたその時、聖女メイド姿の詩織ちゃんが、顔を真っ赤にして客席へと飛び出してきた。


「あ、安心してくださいっ! あれは……えっと、最新の透明な配膳ロボットですっ! 学園の科学部が開発した、見えないAIなんですっ!!」


(……詩織ちゃん、いくらなんでもその言い訳は無理があるだろ……)

 俺が少し離れた場所でツッコミを入れていると、客たちは「す、すげぇ! 科学部ヤバいな!」と謎の納得をしてフラッシュを焚き始めた。どうやら平和な日常は守られたらしい。



そんな大盛況の店内だったが、昼時を過ぎた頃、招かれざる客がやってきた。

 派手なアクセサリーをつけ、制服を着崩した他校の不良グループだ。


「おいおい、ここのメイド、レベル高すぎだろ。特にそこの三人」


リーダー格の男が、リカとナギサの腕を無理やり掴もうと手を伸ばした。


「ちょっと! 触んないでよ、営業の邪魔だし!」

「……無礼ね。腕を切り落とされたくなければ、すぐに離しなさい」


リカがギャル特有の鋭い視線で睨みつけ、ナギサが手にしたお盆を刃物のように構える。

 一触即発の空気。他の客たちも怯えて静まり返ってしまった。


(……やれやれ。俺が出るしかないか)

 俺は溜息をつき、極微量の『覇気(殺気)』を練り上げながら、彼らの背後へ音もなく歩み寄った。ほんの少しだけ威圧して、大人しく帰ってもらおう。

 そう思った、その瞬間。


「――おやおや。当店自慢のメイドたちに、何かご不満でも?」


コツン、とヒールの音が響いた。

 現れたのは、タイトな黒のスーツに身を包み、冷徹な眼鏡を光らせる凛さんだった。彼女の放つ、本物の『裏社会のトップ(秘書)』のオーラに、不良たちがビクッと肩を震わせる。


「あぁ? なんだお前、引っ込んで……」

リーダー格の不良が凄みながら振り返り、凛の顔を見た、その瞬間。

 不良の顔から一気に血の気が引き、土気色に変わった。


(ま、待てよ……。この冷徹な眼鏡、背筋が凍るような完璧な佇まい……まさか、裏社会で泣く子も黙る黒田組の『氷の秘書』……ッ!? なんでこんな高校の文化祭にいるんだよぉぉぉ!!)


彼らは隣町の不良グループだったが、裏社会に少しでも関わる者なら誰もが知っている都市伝説があった。そして昨日、彼らの総長が黒田グループのビルに向かったきり、涙と鼻水まみれで帰ってきたという事実が、不良の脳内で一気に結びついたのだ。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。私は彼女たちの保護者……いえ、しがない責任者でございます。もしよろしければ、お話をお伺いしましょうか?」

「ひぃぃぃっ!! す、すんませんでしたぁぁぁ!!」


ドゴォォォンッ!!

 凛が一歩前に出ただけで、不良たちは全員、床に額をこすりつけるような完璧な土下座を披露した。


「よろしい。当店はオムライスが絶品ですので、残さず食べていってくださいね」

「は、はいぃぃっ! いただきますぅぅっ!!」


不良たちはガクガクと震えながら、土下座の姿勢のまま猛スピードでオムライスを口に運び始めた。

 そのあまりにも異様で、しかし圧倒的な解決劇に、店内からは「おぉぉ……!」と割れんばかりの拍手が巻き起こった。


(……すげぇ。魔法とか覇気とか一切使わずに、ただ顔を見せただけで制圧しちゃったよ。凛さん、敵に回すと魔王より怖いかもしれないな)

俺が厨房の影で戦慄していると、凛さんが眼鏡をクイッと押し上げ、俺に向かって小さくウィンクをして見せた。


「凛さん、マジで最高じゃん! 助かったー!」

「ええ、流石は大人の交渉術ね。私たちもまだまだだわ」


リカとナギサもホッと胸を撫で下ろし、喫茶店は再び活気を取り戻した。


前半戦の『メイド&執事喫茶』は、俺のステルス給仕と凛さんの完璧なクレーマー処理によって、大成功のうちに幕を閉じた。

 しかし、俺たちの学園祭はこれで終わりではない。


午後にはいよいよ、全校生徒が注目する体育館の特設ステージ。

 ヒロインたちの欲望が煮詰まった、あの『カオスすぎるファンタジー演劇』の本番が待ち受けていた――。

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