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完璧なモブと、重すぎる買い出しの荷物

体育祭の興奮も冷めやらぬまま、季節はすっかり文化の秋。

 俺たちの高校では、年間最大級のビッグイベント『学園祭』の準備が本格的にスタートしていた。


「――というわけで、ウチのクラスの出し物は『メイド&執事喫茶』。さらに有志による体育館での『ファンタジー演劇』。この二段構えで行くぞ!」


委員長の宣言に、クラス中が沸き立つ。

 俺、天城カイトは、今度こそ「完璧な一般人ライフ」を手に入れるべく、早々に自分の居場所を確保しにいった。


「俺、喫茶の厨房やるわ。劇も、その他大勢の『村人A』とかでいいし。セリフなし、衣装も地味、これこそが真の平和だ……」


一人で安堵の溜息をつく俺。……だったが。

 俺の隣に座るリカが、ガタッと椅子を鳴らして身を乗り出してきた。


「ちょっと天城くん! 『村人A』なんてアタシが許さないし! アンタ、あの狐……じゃなくて、あんなにカッコいいんだから、舞台のど真ん中でキラキラしてなきゃダメじゃん!」

「ええ。天城くんの所作には、見る者を圧倒する『武』……いえ、『気品』があるわ。厨房に隠しておくなんて、学園の損失よ。執事服も私が特注……じゃなくて、似合うものを用意するから」

「あ、あのっ……天城くん。劇でも、私の隣に……いてほしい、ですっ……」


リカ、ナギサ、そして詩織ちゃん。

 三人の女神(ガチ恋勢)が放つ圧倒的な「無自覚な圧力」に、クラスの男子たちは「また天城かよ……!」「村人Aをそんなに取り合うなよ!」と血の涙を流している。

 ……どうしてこうなった。俺のモブライフは、開催前からすでに絶望的な状況だった。



数日後。俺たちは放課後の街へ、出し物の装飾や衣装、大道具の材料を買い出しに来ていた。

 メンバーは、俺、リカ、ナギサ、詩織ちゃんの四人。

 ……そして、なぜか「偶然通りかかった」という体で、高級車から降りてきた凛さんも合流している。


「あらカイト様。偶然ですね。ちょうど黒田グループが提携している資材問屋に用事があったのです。よろしければ、私の案内で買い出しを済ませてしまいましょう」


凛さんはいつもの秘書スマイルで、俺の隣をちゃっかり確保する。

 俺たちはホームセンターに入ると、演劇で使う巨大な木材や、喫茶の装飾用の大量の布、さらに食器類などを次々とカートに積み込んでいった。


「お、おい……これ、流石に重すぎないか?」


カート三台分。普通の男子高校生なら、数人がかりで運んでも悲鳴を上げる量だ。

 だが、俺は無意識に指先から微量の『重力軽減魔法フェザー・タッチ』をカート全体に流し込んでいた。


「大丈夫だよ、見た目ほど重くないから。俺が全部運ぶよ」


俺は、数百キロはあるはずの木材と資材を積んだカートを、小指一本で押すような軽やかさでスイスイとレジへ運んでいく。


「な、天城くん!? それ、絶対に重いでしょ!? 片手でスイスイ行くのおかしくない!?」

「……え? ああ、これ。たまたま重心のバランスがいいみたいなんだよ。慣れれば誰でもできるって」


俺が爽やかな笑顔(一般人擬態)で返すと、リカは「絶対嘘だぁぁ!」と叫び、ナギサは「……天城くんの重心移動、やはり常人の域を超えているわ。私も修行せねば」と、見当違いな方向に感銘を受けていた。

 詩織ちゃんは「天城くん、かっこいいです……!」と、俺の力持ちっぷりに完全に目をハートにしている。



レジを済ませ、店を出たところで。

 他の学校の女子高生たちが、荷物を軽々と運ぶ俺を見て、「え、あの人カッコよくない?」「あの重そうなの片手で……王子様じゃん!」とザワつき始めた。


その瞬間、俺の周りの空気が「氷点下」まで下がった。


「……ねぇ。天城くん、今の女子たちにめっちゃ見られてたよね。なんかムカつく」

「……不届き者ね。カイト様は私たち……いえ、クラスの貴重な戦力なのよ。安易に視線を向けるなど、礼儀に欠けるわ」

「天城くん、あ、あんまり……あっちを見ちゃダメですっ……!」


三人の「無自覚な独占欲」が爆発し、俺は三方向から服の裾をギュッと掴まれる事態に。

 当の彼女たちは、自分たちが「他校の生徒からも注目されるレベルの超絶美少女」であり、そんな三人に囲まれている俺が「全男子の嫉妬の対象」になっていることに、一ミリも気づいていない。


「え、えーと……みんな、早く学校に戻って大道具作らないと間に合わないよ?」

「それもそうね。カイト様、残りの資材は私の手配したトラック(黒田組の輸送部隊)が運びますので、カイト様は私の車へどうぞ」


凛さんがさらりと「一般の買い出し」の範疇を超えた提案をしてくる。


「いや、凛さん、それは目立ちすぎるから……俺、みんなと電車で帰るよ」

「ちぇっ、凛さんズルいし! アタシたちも天城くんと電車で帰るもん!」


結局、大量の資材を積んだトラックが俺たちの後を「目立たないように(威圧感たっぷりに)」追走する中、俺たちは夕暮れの電車に揺られて学校へと戻った。


学校に着くと、俺は魔法で「加重」をさらに消しつつ、巨大な背景パネル用の合板を一人で五枚重ねて教室まで運んだ。

 それを見たクラスの男子たちが「おい、天城……お前、筋肉どうなってんだよ……」とドン引きしていたが、リカが「天城くん、実家が引っ越し屋さんの手伝いしてて、コツを掴んでるだけだから!!」という、昨日思いついたような設定で強引にカバー。


こうして、学園祭の準備は「カイトの無自覚な超人パワー」と「ヒロインたちの力技な隠蔽工作」によって、着々と(?)進んでいくのだった。


「よし! 脚本も演出も完璧! 当日は天城くんを世界一のヒーローにしてあげる!」

「ええ。体育館のステージ、楽しみにしていてね、天城くん」

「わ、私……オムライスに描くハート、いっぱい練習しておきますっ!」


俺の「村人A」としての平和な計画が、彼女たちのキラキラした瞳に吸い込まれて消えていくのを感じながら。

 俺は、出来上がったばかりの『メイド&執事喫茶』の看板を眺めて、少しだけ遠い目をするのだった。

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