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静電気の合気道と、消えるハチマキ

「――全校男子、前へ!!」


体育教師の号令と共に、グラウンドに地響きのような足音が鳴り響いた。

 最終種目、クラス対抗騎馬戦。

 俺、天城カイトの乗る騎馬の周りには、もはや「クラス対抗」という枠組みを超えた、全校男子生徒による包囲網が形成されていた。


「おい、天城……。お前のせいで、俺たちの青春はボロボロだ」

「三大女神全員からあんな熱烈な応援を受けて、無事で済むと思うなよ……!」


敵クラスだけじゃない。俺を担いでいる味方のクラスメイトたちからも、殺気が漏れ出している。彼らは俺を支えるどころか、隙あらば俺を地面に叩きつけようと手ぐすねを引いていた。


ピーーーーッ!!


開戦の笛が鳴り響いた。

 その瞬間、数百人の男子生徒たちが、雄叫びを上げながら俺という一点に向かって大津波のように殺到してきた。


「死ねぇぇぇ天城ィィィッ!!」


四方八方から、何十本もの手が俺の頭のハチマキを狙って一斉に伸びてくる。

 だが、俺の視界には、それらの動きは全てスローモーションに映っていた。


(……怪我をさせちゃダメだ。優しく、そっと弾くだけ……!)


俺は、100年のサバイバルで極めた護身の極致『流派・水月すいげつ』を無意識に発動した。

 迫りくる男たちの手首や肩に、俺の指先がチョンッと触れる。それだけで、彼らは自分の勢いを制御できなくなり、まるで独楽こまのように激しくキリモミ回転しながら、左右へと弾き飛ばされていった。


「な、なんだぁ!? 触れただけで吹っ飛んだぞ!?」


グラウンドに人間大車輪が次々と発生し、突っ込んできた先鋒隊が壊滅する。その異常事態に、リカがすかさずメガホンを構えて叫んだ。


「静電気っしょ!! 服の摩擦でヤバいレベルの静電気が発生して、反発しあってるだけだって!! 今日、乾燥してるからマジで危ないし!!」


リカの(季節外れの)強引な解説に、観客席の保護者たちが「あぁ、静電気なら仕方ないわね」と謎の納得を始める。その隙に、ナギサが身を乗り出して追い打ちをかけた。


「ええ! 今のは天城くんの合気道……ではなく、卓越した『流体力学』による回避よ! 彼はただ、風の流れに身を任せているだけだわ!」



だが、全校男子の執念は凄まじかった。

 「静電気なんて知るか!」と、生き残った百人以上の男子が、最後の一斉突撃を敢行したのだ。

 俺の騎馬は完全に包囲され、巨大な人間の山に飲み込まれていく。凄まじい砂煙が舞い上がり、俺の姿は完全に見えなくなった。


「もらったぁぁぁっ!!」


男たちの歓喜の叫び。しかし、その瞬間。

 砂煙の中から、パチンッという乾いた指の音が響いた。


シュンッ!!


0.05秒。

 俺は魔大陸での隠密スキルと、暗殺者の神速を解放した。

 視認できない速度で自分の騎馬から離れ空気を蹴る技術『空歩』を発動。全員の頭の間を縫うように移動し、すれ違いざまに全てのハチマキを抜き取る。そして自分の騎馬に戻った。


砂煙が晴れた時。

 そこには、一歩も動いていないように見える俺が、依然として馬の上に立っていた。

 そして――。


「……あれ? 俺のハチマキは!?」

「えっ、俺のもないぞ!?」


突っ込んできた百人以上の男子生徒たちが、自分の頭が「いつの間にか」丸裸になっていることに気づき、呆然と立ち尽くした。

 俺の手には、結んで一本の長いロープ状にした、数百本のハチマキが握られていた。


「……あ、これ、みんなの落とし物だよ。危ないからまとめておいたんだ」


俺が爽やかな一般人スマイルでそれを掲げると、グラウンドは今日一番の沈黙に包まれた。

 あまりにも不自然。あまりにも異常。

 だが、その静寂を切り裂いたのは、放送席から駆け下りてきた詩織ちゃんの必死な叫びだった。


「す、素晴らしい手品ですっ!! 天城くんは、実は放課後にマジックの特訓をしていたんです! 今のは、全校生徒を巻き込んだ壮大なイリュージョン・ショーでした!!」


「え、手品……?」

「あ、ああ! それなら納得だ! 今の、ハチマキを瞬時に抜き取るトリック、すごかったな!」


詩織ちゃんの(涙目の)擁護によって、全校男子たちは「手品で負けたなら、それはそれでカッコいい……のか?」と、再び強引に納得させられてしまった。


「――判定!! 優勝は、天城カイトのいる白組ーーっ!!」


審判の笛が鳴り響き、白組の生徒たちが(俺を恐れながらも)歓喜の声を上げる。

 リカ、ナギサ、詩織の三人が、弾けるような笑顔で俺の元へ駆け寄ってきた。


「天城くん、最高っしょ!! 世界一のマジシャンだよ!!」

「……ええ、貴方の武……いえ、手品は、今日この学園の伝説になったわ」

「がんばりましたっ、天城くん! 優勝、おめでとうございますっ!」


俺は、泥だらけになった彼女たちの笑顔を見て、ようやく肩の力を抜いた。

 100年の孤独を経て、俺が手に入れたかったのは、この騒がしくて、滅茶苦茶な言い訳が通用してしまう、温かい「平和」なのだ。


全校男子の怨嗟も、三大女神の熱い抱擁も、全ては秋の空に消えていく。

 俺の平穏な日常(?)を守るための戦いは、こうして最高の結果と共に、体育祭の幕を閉じるのだった。

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