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炸裂する女神たちの愛

午前の部の「竜巻」や「ホバー走行」による混乱も、ヒロインたちの力技な言い訳によって(強引に)沈静化し、体育祭はいよいよ午後の部へと突入した。

 俺、天城カイトは、観客席の隅で「午後は目立たずに済む」と胸を撫で下ろしていた。……だが、それは大きな間違いだった。


「次は、女子による創作ダンスです! 各クラス、趣向を凝らしたパフォーマンスに注目しましょう!」


軽快な音楽と共に、グラウンドの中央にリカたちのクラスが登場した。

 その中心に立つのは、もちろんリカだ。


「……っ!」


音楽が始まった瞬間、リカの動きに全校生徒の目が釘付けになった。

 プロのバックダンサー顔負けのキレ、そしてギャル特有の華やかな表現力。彼女が指先を動かすたびに、観客席から「おおおっ!」という地鳴りのような歓声が上がる。

 だが、当のリカは、数千人の観客など目に入っていない様子で、視線を一点――俺のいる場所だけに固定していた。


ダンスの合間に、俺に向かって完璧な指ハートとウィンクを飛ばすリカ。そのたびに周囲の男子生徒たちが「今の俺に!?」「いや俺だろ!」とバタバタ倒れていくが、リカは演技終了後、真っ赤な顔で俺の元へ駆け寄ってきた。


「ど、どうだったかな……。……あーもう、そんなに見ないでよ! アンタにいいとこ見せたかっただけだし……。変じゃなかった、っしょ?」


さっきまでのカリスマ的なオーラはどこへやら。上目遣いで感想を待つ彼女の姿は、ただの恋する乙女そのものだった。



「続きまして、女子クラス対抗リレー、決勝です!」


グラウンドに緊張が走る。最終ランナー(アンカー)のラインに立ったのは、ハチマキをキリリと締め直したナギサだった。

 バトンが渡り、ナギサが駆け出す。


――ドォォンッ!!


地面を蹴る音が、明らかに他の女子生徒とは違った。

 カイトに教わった(無意識に伝授された)効率的な身体操作を、彼女は無自覚に応用していたのだ。土煙を上げ、文字通り「風」となったナギサは、前を走る三人をごぼう抜きにし、圧倒的な差をつけてゴールテープを切った。


静まり返るグラウンド。女子リレーで出していい速度を、彼女は明らかに超えていた。

 ナギサは荒い息をつきながら、真っ直ぐに俺のところへ歩いてくると、不安げに首を傾げた。


「天城くん……今の、ちょっとは……かっこよかった、かしら? その、私、貴方の隣に立つ者として、不甲斐ない姿は見せたくなくて……」


凛とした剣士の面影はどこへやら。自分の速さが異常だったことよりも、俺にどう見えたかを気にして小刻みに震える彼女の手を、俺は「凄かったよ」となだめるしかなかった。



そして、午後の部最大の盛り上がりを見せたのが、詩織がプロデュースした『応援合戦』だった。

 普段は大人しい彼女だが、この日のために凛のバックアップ(最新の演出機材とデータ分析)を受け、構成・音ハメ・フォーメーションのすべてを一人で設計したという。


「……始めます」


詩織の合図で始まった応援は、もはや芸術の域だった。

 観客の視線がどこに誘導され、どのタイミングで音が響けば最も感動を呼ぶか。緻密に計算されたフォーメーション移動は、カイトの座る位置から見た時に最も美しく見えるように設計されていた。


完璧なシンクロを見せる応援団。最後、何百人もの生徒が人文字で描いたのは、俺だけが気付く「隠しメッセージ」入りの校章だった。

 演舞を終え、額の汗を拭いながら、詩織は控えめに、けれど満足げに微笑んだ。


「……がんばりました! 天城くんに、一番綺麗な景色を見て欲しくて……。私、役に立てたでしょうか……?」


控えめな彼女の、執念すら感じる完璧な仕事ぶり。その才能の片鱗に、俺は(これ、一般人のレベルじゃないよな……)と戦慄しつつも、彼女の頭を優しく撫でてやった。



「――さて! 本日の体育祭、いよいよ最終種目です!」


放送席の凛さんの声が、一段と低く、そして熱を帯びて響き渡った。


「全校男子による、クラス対抗――『騎馬戦』!!」


「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」


グラウンドに、今日一番の怒号が響く。

 リカ、ナギサ、詩織。学園の三大女神の愛を独占し、午前の部で数々の「怪奇現象」を引き起こした俺に向けられる、全校男子生徒たちの殺意に満ちた眼差し。


「……おい、天城。覚悟はできてるんだろうな?」

「今日こそ、その涼しい面を拝めなくしてやるよ……!」


敵は、他のクラスだけじゃない。味方であるはずのクラスメイトたちすらも、騎馬の土台を組みながら、俺を「生贄」にするような邪悪な笑みを浮かべていた。


そして、本部席。

 凛さんが冷たい眼鏡の奥で、カイトの無事(と、彼に群がる羽虫たちの排除)を確信しながら、不敵な笑みを浮かべていた。


「さぁ、カイト様。貴方の『平和な日常』を勝ち取るための、最後の戦場です」


俺、天城カイト。

 100年の戦場を生き抜いた男の、最大級の「手加減」と「生存戦略」が試される騎馬戦が、今、幕を開けようとしていた。

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