表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/60

ホバーする二人三脚と、竜巻を呼ぶ英雄

雲一つない、絶好の秋晴れ。

 俺たちの高校のグラウンドは、全校生徒と保護者たちの熱気に包まれていた。

 秋季・全校体育祭。平和な日常の象徴とも言えるこの大イベントは、100年間の魔大陸サバイバルを経験した俺にとって、自らの身体能力を「0.0001%」に抑え込み続けなければならない、針のむしろのような耐久ミッションでもあった。


「天城、ごめんな。俺、運動マジで苦手でさ……。足引っ張ると思うけど」


午前の部、最初の出場競技である『二人三脚』。

 ペアになった気の弱そうな文化系のクラスメイトが、申し訳なさそうに俺に笑いかけた。


「気にするなよ。俺がペースを合わせるから、ただ前だけ見て走ってくれ」


俺は爽やかな「一般人スマイル」で返しつつ、足首を紐で結んだ。

 (よし。俺の筋力を極限まで抜き、彼の重心移動に完全に同調する。100年培った『気配同調』のスキルを使えば、普通の高校生のスピードで走れるはずだ)


パンッ! と、ピストルの音が鳴り響いた。

 俺たちはスタートダッシュを切った――が。


「あっ……!」


開始わずか数メートルで、ペアの男子が自分の足をもつれさせ、前のめりに派手に転倒しそうになった。


(しまった、転ぶ! このままじゃ彼が怪我をする!)


俺の100年の戦闘本能(仲間を守る防衛機構)が、理性を飛び越えて無意識に発動してしまった。

 俺は倒れかける彼の首根っこをガシッと掴むと、そのまま『縮地』を発動。さらに、グラウンドの摩擦で彼が擦り傷を作らないよう、足元に微弱な『風属性魔法エア・クッション』を展開した。


結果、どうなったか。


「うおおおおぉぉぉっ!?」


ペアの男子は、足が地面から10センチほど浮遊した状態(ホバークラフト状態)になり、俺の縮地に引きずられる形で、猛烈な土煙を上げながらグラウンドを爆走し始めたのだ。


「えっ? 天城ペア、なんか速すぎない!?」

「っていうかあいつ、足動いてなくね!? 浮いてるぞ!?」


観客席がざわめき始めた。

 マズい。このままでは超能力者だとバレてしまう。俺が冷や汗をかいた、その瞬間。

 グラウンドのスピーカーから、放送委員のテントに座っている詩織ちゃんの、裏返りそうな悲鳴混じりの実況アナウンスが響き渡った。


『あ、あ、あれは滑空現象ですっ!! 天城くんの凄まじい足腰のバネが、グラウンドの空気抵抗をゼロにして、一種のホバー効果を生み出しているんですっ! 物理ですっ! 科学の勝利ですっ!!』


「「「…………えっ?」」」


全校生徒がポカンとしている間に、俺たちはぶっちぎりの1位でゴールテープを切った。ペアの男子は白目を剥いて気絶していた。

 詩織ちゃんは放送席で顔を真っ赤にして息を上げている。どんなオカルト科学だ。だが、彼女の必死のフォロー(?)のおかげで、グラウンドには「な、なんかすごい科学の力らしいぞ……」という謎の納得感が広がっていた。



続く午前の部、最終競技『大玉転がし』。

 自分の背丈ほどもある巨大な玉を、クラスの数人で協力して転がしていくリレー形式の競技だ。


(よし。さっきは無意識の魔法が漏れた。今度は本当に、ただ手を添えて歩くだけだ。アリを撫でるような優しさで……)


俺の番が回ってきた。

 巨大な玉の表面に、そっと両手のひらを当てる。

 ――しかし。

 『巨大な球体を押し出す』という動作が、魔大陸で巨大な岩の魔物ゴーレムを押し返す時のフォームと完全に一致してしまったのだ。


「……ふっ!」


無意識のうちに、俺の掌から強烈な『闘気オーラ』が放たれた。

 その瞬間、大玉はゴムが焦げるような異音を立て、超音速のRPMで猛烈なスピンを始めた。


ギュルルルルルルッ!!!


「な、なんだあれ!?」


大玉の異常な回転が周囲の空気を巻き込み、グラウンドの砂を吸い上げて、なんと高さ十数メートルの『巨大な竜巻』を発生させてしまったのだ。

 大玉(と竜巻)は、俺が歩くスピードに合わせて、他のクラスの玉を暴風で吹き飛ばしながら、ゴールへと一直線に爆走していく。


「あわわわわ……!」

 またしても俺の一般人ライフが崩壊の危機に直面した時、観客席の最前列から、リカとナギサがメガホンを持って身を乗り出してきた。


「みんな逃げてーっ!! ただのつむじ風っしょ!! 秋は気圧が不安定だから竜巻が起きやすいんだよ!!」

「ええ! 天城くんは、たまたま発生した突風の『目』に入ってしまって、風に押されているだけよ!! 気象庁の怠慢ね! 彼も被害者よ!!」


二人の必死すぎる(そして気象庁に責任をなすりつける)フォローの声が、暴風の中にこだまする。

 もはや誰も大玉転がしなど見ていない。「竜巻だぁー!」と逃げ惑う生徒たちの中で、俺は一人、静かな竜巻の中心(台風の目)をトボトボと歩き、無事に1位でゴールを果たした。



なんとか(?)午前中の競技が終了し、お昼休みの時間。

 俺は木陰のシートで、リカ、ナギサ、詩織ちゃんに囲まれながら、ホッと安堵の息をついていた。


「はぁ……。二人三脚のホバーも、大玉の竜巻も、みんなの完璧なフォローのおかげで、一般人のままでやり過ごせたよ。ありがとう」

「ふふん! 余裕っしょ! 誰も天城くんが超能力使ったなんて思ってないから!」

「ええ。科学と気象異常。完璧な言い訳だったわ。私たちの連携の勝利ね」


ヒロインたちは、自分たちの「トンデモ理論」が完璧にカモフラージュとして機能したと信じて疑わず、ドヤ顔で頷き合っている。

 (周りの生徒が『天城の周り、なんかヤバい自然現象起きすぎじゃね?』とドン引きしていることには、誰も気づいていない)


「さて、午前の部は天城くんがいっぱい活躍したから、午後からは私たちの番だね!」


リカが、お弁当の唐揚げを頬張りながら、ギラリと目を輝かせた。


「午後は女子の障害物走に、全員参加の騎馬戦! アタシたち、天城くんにいいところ見せるために、めっちゃ気合い入ってるから!」

「ええ。天城くんは、私の武の真髄……いえ、体育祭に懸ける情熱を、特等席で目に焼き付けなさい」

「わ、私も……一生懸命走りますっ! 天城くんのためにっ!」


三人の少女たちから立ち上る、尋常ではない気合いと熱量。

 俺は、お弁当の卵焼きを飲み込みながら、午前の自分のやらかしとは全く別の、背筋が凍るような嫌な予感を感じていた。


(……待てよ。この三人、学園でもトップクラスの身体能力と運動神経を持ってるよな。それが、『俺にいいところを見せたい』という激重な愛情バフを受けた状態で、女子競技で本気を出したら……一体どうなるんだ?)


俺の平和な一般人ライフの防衛戦は、ヒロインたちの大暴走という新たな火種を抱えたまま、波乱の午後の部へと突入しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ