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実戦経験と、教科書通りの言語学

理数系科目で「カンニング疑惑」と「野生の勘」という不本意な評価を下された俺だったが、まだ挽回のチャンスは残されていた。

 3時間目は世界史。そして4時間目は英語だ。


(歴史は暗記科目だ。そして英語は言語コミュニケーション。異世界で100年、数多の国家の興亡を見届け、エルフから魔族まであらゆる種族と交渉してきた俺にとって、文系科目はまさにホームグラウンド!)


世界史の授業。

 初老の教師が黒板に中世ヨーロッパの地図を描き、ある有名な「籠城戦」の解説を始めた。


「――このように、王立軍は城を包囲し、圧倒的な兵力差で攻め入ろうとしたわけだ。さて、この後どうなったか分かる者……天城」

「はい!」


俺は自信満々に立ち上がった。

 城の包囲戦。それは異世界で嫌というほど経験したシチュエーションだ。俺は黒板の布陣図を一目見て、かつての実戦の記憶トラウマを引きずり出した。


「王立軍は負けますね。兵力差に胡坐をかいて、背後の森の索敵を怠っています。この陣形だと補給線ルートが間延びしすぎです。俺なら夜闇に紛れて森から軽装騎兵で奇襲をかけ、兵糧を焼き払います。補給線を絶たれれば、大軍であるほど自滅するのは早いですから。三日で内乱が起きて撤退ですよ」

「…………」


教室が水を打ったように静まり返った。

 教師が、震える手でチョークを握りしめている。


「……天城。なぜ、この後の展開を完璧に言い当てた?」

「えっ? いや、実戦の基本っていうか、兵站を軽視する将軍なんて三流以下ですから。普通に見れば分かりますよね?」

「普通に見ても分からん!! というか、お前はどこでそんな『実戦の知識』を身につけたんだ! まだ教科書の次のページにも入っていないのに、未来の展開をネタバレするな!」


俺は教師からこってりと絞られ、発言権を没収された。

 クラスメイトたちが「天城のやつ、めっちゃ早口で語ってたな……」「戦争語らせたらヤバい奴じゃん……」とヒソヒソと囁き合っている。


(くっ……! 実体験ベースでアドバイスしたのに、なんで怒られるんだ! 平和な日本の高校生は、補給線の重要性も分からないのか!)



4時間目の英語。

 気を取り直して臨んだこの授業でこそ、俺の真のコミュニケーション能力を見せつける時だ。


「えー、ではこの場面。道で外国人に道を尋ねられた時の返答を、教科書の構文を使って英訳しなさい。……よし、天城、書いてみろ」


俺はチョークを受け取り、黒板に向かった。


(異世界では、言葉が通じない相手とのコミュニケーションミスは即『死』に直結した。だからこそ、相手の警戒を解き、最も自然で実用的な言い回しを選ぶ必要がある!)


俺は、教科書の『Go straight and turn right』といった機械的な文章を完全に無視し、ネイティブすら驚くような、スラングと実用性に富んだ超実践的な英語(酒場で傭兵と仲良くなる時のテンション)をスラスラと書き連ねた。


「できました!」

「……天城」


英語教師が、深い深いため息を吐いた。


「お前の書いた英文は、たしかに現地でなら通じるだろう。すごく自然で、こなれた言い回しだ。だがな……」


バツッ!!

 教師は容赦なく、俺の完璧な実用英語の上から赤いチョークで巨大なバツ印を描いた。


「ここは学校だ! 教科書通りの文法を使わなければ減点だと言っているだろうが! お前の解答は、試験では一切通用しないぞ!」

「そ、そんなぁ! 現地じゃ教科書の英語なんて、誰も喋ってないですよ! もっとフレンドリーにいかないと、情報すら引き出せませんって!」

「ここは戦場でも酒場でもない、平和な教室だ! 座りなさい!」


結局、英語でも大減点を食らい、俺は机に突っ伏して燃え尽きた。


(俺の100年……俺が生き抜くために身につけた知識は、現代日本の学校教育では一切評価されないのか……ッ!)



昼休み。

 すっかり魂が抜けている俺の机に、バンッ!と勢いよく両手が叩きつけられた。


「あはははっ! ちょっと天城くん、今日の授業マジでウケたんだけど!!」


ギャル全開の明るい声。星野リカが、腹を抱えて笑いながら俺の顔を覗き込んできた。

 リカの周りにいるギャル仲間たちも、「天城ウケるー」「先生ガチギレだったじゃん」とケラケラ笑っている。


「補給線がどうとか、三日で撤退とか、マジどの目線で語ってんの!? 戦国武将の生まれ変わりかよ!」

「あ、いや……歴史、ちょっと好きでさ……」

「英語もヤバかったし! なにあれ、洋画の見すぎっしょ! Netflixでマフィアの映画とか見まくってる陰キャ特有のやつじゃん!」


リカはバンバンと俺の背中を叩きながら、涙目になるほど爆笑している。


(……おおっ!?)


俺の心の中で、一筋の希望の光が差し込んだ。


(リカのやつ、俺のことを『歴史ゲームのやりすぎな軍師気取り』で『洋画かぶれのイキりオタク』だと完全に勘違いしてくれている! 評価は散々だったけど、結果的に『ちょっと痛いモブ男子』としてのポジションを獲得できたってことか!)


「ふっ、まぁな。俺にかかれば、歴史の戦局を読むなんて造作もないことよ」

「うわ出た、そのドヤ顔マジで痛い! あっはは、天城くんってほんと変なヤツ!」


俺はリカたちにイジられながら、心の中で「一般人偽装計画、大・成・功!」と盛大なガッツポーズを決めるのだった。

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