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26 『彼』はすでにここに居る
そうして色雄の姿が見えなくなった頃、
撫子が紳士クンの背中にガバッと抱きついて呟いた。
「ありがとう、ありがとう紳士・・・・・・」
それに対して紳士クンは、またいつもの優しい笑顔に戻ってこう返す。
「えへへ、今まではお姉ちゃんに守ってもらってばかりだったからね。
これからは僕がお姉ちゃんの事を守ってあげる番だよ」
「まあ!あんたも随分言うようになったわね!」
撫子が大げさに驚いてそう言うと、こらえきれなくなったように笑いだし、
それにつられて紳士クンもプッと吹き出して笑った。
そして一通り笑った後で、紳士クンは促すように撫子に言った。
「それじゃあ、その手紙を木の下に隠さなくちゃね」
「そ、そうね。人目につかないようにね」
紳士クンの言葉にそう言ってうなずいた撫子は、
希里が上で見ているとも知らず、その木の根元に生い茂る草むらに、
パッと見ただけでは分からないように手紙を隠し、
「それじゃあ私、教室に戻るから!
こ、これ以上ここに居て、その、彼(、)が来たら大変だから!」
と言い残し、足早にその場から走り去って行った。
撫子の言った『彼』が、すでにこの場に居るとも知らずに・・・・・・。




