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【99】


ほとんどのハイエルフ達を殲滅し、生き残った者達も拘束した頃、ようやく意識を取り戻したメルディナの両親から詰め寄られたヴィルム達は、彼らの拘束を解きながら事情を説明した。


「そんな・・・メルディナが拐われただって?」


「ハルツァン様がデートにでも連れ出しているんじゃ?」


『それなら、貴方達を拘束する事は、ない。やましい事があるから、そうする必要が、あった』


やはり、信じられないと言うエルフ達は、フーミルの言葉に絶句してしまう。


「そ、そう言えば・・・さっきハイエルフがハルツァン様の儀が終わるまで、とか何とか」


多少なり、不信感が出てきたのだろう。


今までであれば信じて疑う事すら考えなかったハイエルフの言葉に引っ掛かりを持ったエルフの男性が、ポツリと呟いた。


それを耳にしたヴィルムの目付きが鋭く変化する。


「まずいな。あまり時間に余裕はなさそうだ」


「え・・・? お、お師様、それはどういう事ですか?」


ヴィルムの言葉と雰囲気に不安を煽られたクーナリアが恐る恐る訪ねるが、その答えは返ってこない。


何か言いたげなヴィルムだったが、すぐに口を閉じると彼女に背を向けた。


「クーナには悪いが、説明している時間が惜しい。メルは俺とフーで助け出す。クーナはオーマとハイシェラと一緒にメルスさん達の説明と護衛を頼む・・・フー、行くぞ」


『ん、急ぐ』


「お、お師様!? ちょっと待ってくだ━━━」


反論は聞かないとばかりに走り出した二人の姿は、すでに見えない。


確かに、自分よりも遥かに強いヴィルム(師匠)と精霊獣のフーミルに付いていけば足を引っ張る事になるかもしれない。


親友が危機的な状況にあるかもしれないという今、何も出来ない自分の弱さに歯噛みするクーナリア。


「何ウジウジ悩んでんだよ」


俯くクーナリアの前に、愛用の大斧が差し出される。


驚いて顔を上げると、そこにはぶっきらぼうながらも真っ直ぐに自分の目を見ているオーマの姿があった。


「メル姉が心配なんだろ? 俺達も行くぞ」


「で、でも、お師様はここにいろって・・・」


煮え切らないクーナリアの姿に、オーマは大袈裟に溜め息を吐いてみせる。


「そーかいそーかい。ヴィルムさんから言われたら、親友のメル姉でさえも見捨てる薄情者だったのかい。なら、別にいーよ。俺一人で行って━━━」


「そんな訳ないですッ!!」


オーマのあまりにも酷い言い様に、クーナリアが必死の形相で喰って掛かった。


彼女の様子を見て頬を緩ませたオーマは大斧をその場に突き立てると、くるりと背を向けて薙刀を担ぎ上げる。


「だったら、行こーぜ。ヴィルムさんに怒られる時は、一緒に怒られてやっからよ。(・・・怒られるのは俺だけな気もするけどな)」


一瞬、呆けたクーナリアだったが、決心がついたのか、先程とは打って変わった表情でコクリと頷いた。


二人はハイシェラにエルフ達の護衛を任せ、ヴィルムとフーミルが走っていった方向へと駆け出していった。




* * * * * * * * * * * * * * *




一方、ヴィルムとフーミルは、残り香を頼りにメルディナを追跡していた。


彼女の場所を全力で探すフーミルだったが、里を出て少しした時点でヴィルムには心当たりがあった。


(ここは・・・まさか)


その考えを肯定するかのように、急ブレーキをかけて止まるフーミル。


『この中に、入ったみたい』


そこは今朝方にメルディナと入ったばかりの、あの遺跡だった。


遺跡の中に足を踏み入れるが、その光景は朝見た状態と変わりはない。


『ん・・・カビの匂いが凄い。臭くて、メルの匂いが追いづらい、かも』


(メルは確か・・・ここに触れていたな)


悪臭に苦戦しているフーミルを下がらせ、記憶に新しい手順を再現してみるが、入り口に反応はなかった。


(開かないって事は・・・やはり特定(メルディナ)の魔力にのみ反応する仕掛けという事か。ならば━━━)


正規の手順を早々に諦めたヴィルムは、全身に魔力を纏わせながら、構えをとる。


「強行突破しかない、なッ!!」


踏み込むと同時に石壁に向けて放たれた拳は、それを貫通する所か周囲を巻き込んで爆発したかのように粉々に砕いてしまった。


聖樹の結界でもない、たかが石の壁を壊すには少々過剰な攻撃力だったかもしれない。


崩れ落ちた石壁の先には、見覚えのある通路が奥へと続いていた。


「フー、ここからは罠が至る所に仕掛けられているから、十分に気を付けてくれ」


『ん、わかった。ヴィー兄様も、気を付けて、ね?』


二人はお互いに頷き合うと、遺跡の中へと足を踏み入れていった。




遺跡に入ってから数分後、ヴィルムとフーミルは凄まじい罠の数々に苦戦していた。


流石に、今朝身を持って体験したマジックアローの罠に掛かる事はなかったが、それ以降の罠の数が飛躍的に増えていたのだ。


「くっ!? 一体、どうなってやがる!」


『ここ作った奴、絶対に、性格悪い』


上下左右からランダムに突き出される槍を避わしきった所で、転がってきた大岩の軌道上から逃れる。


息を吐く暇もなく、そこに吊り天井が落ちてきた為、ヴィルム受け止めた後にフーミルが粉々に切り刻んだ。


マジックアローの罠もそこら中に仕掛けられており、射ち出される数が大幅に増えただけでなく、追跡機能(ホーミング)もあると並外れた鬼畜っぷりである。


所々に点在する落とし穴の中身は言わずもがな、手前と見せかけて奥、奥と見せかけて手前、あるいはその両方がという事さえあった。


ようやく凶悪な罠の数々を抜け、最後の部屋の前に辿り着いた二人だったが、ふと、その光景に違和感を感じたヴィルムはそのまま突入したい衝動を抑えて思考を張り巡らせる。


(・・・朝来た時は、あんな物はなかったんだが)


彼の視線の先には、扉の前に立ちはだかる二体の巨大なゴーレムがいた。


鈍い光を放つ重厚な装甲が、ヴィルムの二倍はあろうかという巨体を包み込み、右手には片手剣というには不釣り合いすぎる程の大剣を、左手には攻城兵器(バリスタ)のような巨大なボウガンを携えている。


現状は攻撃してくる気配はないものの、紫色に光る二組の双眸はヴィルムとフーミルを確実に捉えていた。


「やるしか、なさそうだな」


『ん、邪魔するなら、手加減しない』


数秒程睨み合った後、四つの影がぶつかった。


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