6
その声に、怒りや驚きの色は一切なかった。ただ、美術品の鑑定士のように冷たく、事実だけを提示する。
美咲は、ふっと唇の端を吊り上げた。
その瞳の奥にあるプライドの光は、決して揺らがない。
「いいじゃん。私、お父さんに似て『欲しいものは確実に手に入れる有能なタイプ』だからさ。お兄ちゃんもその要領の良さ、少しは見習いなよ」
有能、という言葉を美咲はことさらに強調した。
美咲にとって、この万引きは単なるスリルではない。
「金がない」というみっともない現実から、自力で、手段を選ばず「欲しいものを手に入れてみせる」という、彼女なりの『エリート』としての証明なのだ。
たとえそれが、他人の財産を盗み出す卑劣な犯罪行為だとしても。
美咲は、スマホの画面をタップして充電器の位置を指し示した。
「それ、そこの机の上にあるから。用が済んだら早く出ていって。明日のための『準備』で、私も忙しいからさ」
美咲の視線は、すでにクローゼットの暗闇から外れ、スマホの画面へと戻っていた。
そこには、どこかの女子高生が紹介している最新のコスメのレビュー動画が流れている。次はどれを「コレクション」に加えるか、品定めをしているのだろう。
零二は机の上の充電器を手に取り、ゆっくりと美咲の部屋のドアへ歩き出した。
「ありがと。お父さん譲りの有能な妹がいてくれて、僕も鼻が高いよ」
零二は美咲の目をじっと見つめて微笑んだ。
美咲も、完璧な無表情のまま、その視線をしっかりと受け止めた。
「どういたしまして。お兄ちゃんも、予備校で『有能な結果』が出るといいね。応援してるよ」
美咲の静かな声が、零二の背中に突き刺さった。
妹は、零二が予備校をサボっていることを薄々察している。だからこそ、父親を引き合いに出して自分の犯罪を正当化しつつ、兄の「無能さ」を的確に刺し返してきたのだ。
零二は小さく笑い、ドアを静かに閉めた。
誰も本音は言わない。
お互いの喉元に刃を突きつけ合いながら、完璧な均衡を保ち続ける。
零二のポケットの中で、冷たいスマホの角が、彼の指先を静かに冷やしていた。
面白いと思われましたらページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援お願いします!




