5
深夜一時。
冷気で満たされた廊下は、まるで深い水底のように静まり返っていた。
零二は自室を出て、美咲の部屋のドアの前に立った。
ドアノブに手をかけ、ノックをすることなく、ごく自然な動作でゆっくりと押し開ける。
美咲はベッドの上で、膝を抱えながらスマホの画面を見つめていた。液晶の青白い光が、その整った顔立ちを不気味に浮かび上がらせている。
美咲は視線だけを零二に向け、不機嫌そうに片眉を上げた。
「……何。ノックくらいしてよ」
その声は、深夜の空気に馴染むように極めて低かった。
「充電器。俺の、なんか接触悪くてさ。美咲のタイプCのやつ、ちょっと貸して」
言いながら、零二は美咲の返事も待たずに部屋の中へ踏み込んだ。
この部屋にもエアコンの冷気が容赦なく吹き込んでいる。零二の視線は、ベッドの脇を通り過ぎ、部屋の隅にある少しだけ隙間の開いたクローゼットへと向かった。
美咲が、かすかに息を止めた。
零二は躊躇うことなくクローゼットの扉に手をかけ、滑らかに横へスライドさせた。
洋服が吊るされたポールの下、暗がりの奥に、それはあった。
大きめのショップ袋がいくつか押し込まれており、その中から、カラフルな海外製の高級コスメや、金属製のシャーペン、香水のボトルが覗いている。
すべてに、値札のついた白いタグがぶら下がったままだ。
零二は、そのうちの一つの袋をそっと引き出し、中身を眺めた。
駅前のロフトやバラエティショップで、ここ数週間で発売されたばかりの人気商品ばかりだった。どれも美咲に与えられているはずの微々たる小遣いでは、到底手が届くはずのない金額のものばかりだ。
美咲はベッドの上で、抱えた膝に深く顎をうずめた。逃げようとする素振りも見せず、ただ捕食者をじっと見据える蛇のような目で、零二を見つめている。
零二は、値札を指先で弾き、乾いた小さな音を響かせた。
「へえ、ずいぶんセンスのいいコレクションだね。お小遣い、足りてなさそうなのにさすがだわ」
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