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キャンドルナイト・エリート ──無職の父と、多重債務の母と、万引きの妹と、サボりの僕──  作者: 端野ゼロ


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親父がブリーフケースを抱え、玄関のドアノブへと手をかけた、まさにその時だった。


ドンドンドンドン!!!


突如として、玄関の重い金属製ドアが、外側から乱暴に叩かれた。


激しい衝撃が、家全体を小さく揺らす。

電気が遮断されているこの家では、電子式のインターホンは作動しない。だからこそ、そのドアを直接拳で連打する物理的な暴力の音が、エアコンの稼働音がない無音のリビングへ、剥き出しのまま突き刺さってきた。


親父の身体が、ドアノブを掴んだまま、氷の彫刻のように固まった。

お袋のペットボトルを持つ手がピタリと止まり、美咲の笑顔が引きつったまま凍りつく。


ドンドンドンドン!!!

さらに激しく、金属を金属で叩くような冷酷なノイズが響き渡る。


「山崎さん! いるんだろ! 開けてください!」


ドアの向こうから、不自然によく通る、それでいて一切の遠慮を排除した男の怒声が響いた。


「オフィスサービスです! 山崎達也さん、奥さん! 居留守は無駄ですよ! 今月末にボーナスが入るから待ってくれってのは、そっちの言い訳でしょうが! 今日が支払いの期日です、開けてください!」


オフィスサービス。

お袋が、ヤミ金一歩手前の督促を延命するために、無職の親父を「大企業のエリート」と偽って担保にしていた金融業者。

昨夜の祝宴で、誰もが「知っている」のに笑顔で隠し合っていたその致命的な泥沼が、大黒柱が「出勤」しようとするその瞬間に、物理的な暴力となって目の前に引き摺り出された。


親父は、ゆっくりと首を巡らせ、お袋の方を見た。

その顔は死人のように青白く、顎のラインから一滴の汗がフローリングの床へと滑り落ちた。


お袋は、微笑みを貼り付けたまま、ただじっと親父の顔を見つめ返している。


「あら……お父さん。あなたの壮大なビジネスの『部下の方』かしら。ずいぶんと……熱心なお仕事のお迎えね」


お袋の喉が、引きつるようにかすかに鳴った。


玄関ドアの連打は、なおも止まらない。

階段の最後の一段に腰掛け、両手を膝に置いた零二は、その崩壊の瞬間を、静かな呼吸とともに見つめていた。


外の「ルール」が、この家族が狂ったように磨き上げてきた、皮肉と嘘の結界を容赦なく叩き破ろうとしていた。



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