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水曜日、午前七時半。
カーテンの隙間から差し込む朝日は、すでに不快な熱を帯びていた。
無風のリビング。エアコンのルーバーは閉じたままで、家を包む空気は生ぬるい澱みのようだ。
親父は、ダイニングテーブルの傍らに立ち、ネクタイのノットを整えていた。
昨夜、暗闇の中で激しく慟哭していたあの背中は、今や仕立ての良い紺色のジャケットに覆われ、非の打ち所がない「一流のビジネスマン」へと戻っている。
だが、浴室で手洗いされ、エアコンの死んだ部屋で生乾きのまま干されていたそのシャツからは、かすかに湿った、重苦しい繊維の匂いが漂っていた。
お袋は、台所のシンクの前に立っていた。 一晩放置された純白のマイセンの皿たちは、昨夜、途中で諦めた醤油の輪染みを乾いた斑点のように張り付けたまま、朝の光にさらされている。 お袋はそれを見つめながら、優雅に麦茶のペットボトルを揺らした。
二階から降りてきた美咲もまた、美しく整えられた制服に身を包んでいる。しかし、その目元には隠しきれない寝不足の陰りがあった。
「お父さん、おはよう。今日はお兄ちゃんの予備校の学費の一括払いと、私の将来への投資……五万円の決済の日ね。さすがに大きな取引が重なる朝は、お父さんの背中も一段と引き締まって見えるわ」
美咲は、いつもの愛らしい娘の笑みを浮かべ、親父の胸元を優しく見上げた。
その言葉は、昨夜から一歩も引き下がらない冷酷な脅迫だった。
「はは……。ああ、当然さ。美咲。すべては一番スマートな方法で、午前中のうちに処理される予定だからね。何も心配はいらないよ」
親父の声はいつも通りよく響いたが、その首元からは、すでにじっとりと冷たい汗が噴き出し、生乾きの襟を濃く濡らし始めていた。
学費数十万円と、美咲の五万円。
一万二千円の寿司代を這いつくばって払った男が、数時間の間にそんな大金を用意できるはずがない。それでも、この男は「できない」と言った瞬間に自分が死ぬことを知っている。
お袋が、ダイニングテーブルに置かれた、空の革のブリーフケースを親父へと手渡した。
「いってらっしゃい、お父さん。私たちのすべての『負債』を、今日で一瞬にして片付けてくれる頼もしい大黒柱。本当に、あなたがいなければ、私たちは明日を生きていくことすらできないわ」
「ああ、任せなさい……。すべては、元通りになるさ」
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