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キャンドルナイト・エリート ──無職の父と、多重債務の母と、万引きの妹と、サボりの僕──  作者: 端野ゼロ


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お袋の言う「負債」とは、零二の学費だけでなく、自身の多額の消費者金融の借金をも指している。

「昇進した有能なお父さんなら、当然私の借金も全部一瞬で片付けてくれるわよね」という、笑顔の仮面を被った冷酷極まりない命令。


親父の首に、お袋の借金という、とてつもなく重い鉄の鎖がさらに一本、ガチリと巻きつけられた。


美咲は、そのただならぬ張り詰めた空気を、自分の好機として逃さなかった。

彼女にとっても、ロフトの万引きの買い取り資金である五万円は、絶対に今すぐ手に入れなければならない生命線だ。

美咲は、お袋に同調するように、この世で最も愛らしい娘の笑みを親父に向けた。


「すごーい。お兄ちゃんの予備校の学費まで、お父さんなら一瞬ね。さすが一流のビジネスマンだわ。それなら、私の『将来への投資』の五万円も、お父さんにとってはただの日常の端数よね。お父さんのその完璧な決済能力があれば、どんな法外なトラブル(ピンチ)が目の前に立ち塞がっても、全部スマートに消し去ってくれるって確信しちゃった。本当、パパの娘に生まれて最高に幸せだわ」


法外なトラブル(ピンチ)を、全部スマートに消し去る。


美咲の言う「トラブル」とは、もちろんロフトの万引き発覚と、警察への通報の危機だ。

親父にはその本当の意味はわからない。ただ、「学校での勉強用のパソコンか何かの、ちょっとした投資」程度にしか思っていないだろう。

しかし、すべてを知っている零二と、失言の恐怖から這い上がってきた美咲の間だけで、その言葉は鋭い刃となって暗闇で交差していた。


親父は、喉の渇きを潤すように、結露すら作らないぬるいお茶をもう一口だけ含んだ。

喉がゴクリと鳴る音が、沈黙したリビングに重く響く。


「はは……。ああ、当然さ、美咲。任せなさい。一流のソリューションプロバイダーにとって、家族が直面する『どんな難題』も、最も洗練された方法で処理してこそ本当の価値があるからね。明日、君たちの望むすべてを、一括で、もっともスマートにクリアして見せるよ。大黒柱の辞書に、決済不能なんて言葉は存在しないからね」


引きつったまま、いつまでも戻らない親父の笑み。

その美声は、喉をかきむしるような乾いた響きを帯び、もはや崩壊寸前のジェンガの頂点で小刻みに震えていた。

背負わされた学費未納、万引きの示談金、そしてお袋のヤミ金。

それらすべての致命的な負債を、親父は自分の『昇進』という砂の城の上に、誇らしげに、自ら積み上げていく。そうしなければ、明日から空のブリーフケースを持って出かける「公園」という名の戦場にすら、立っている資格を失うからだ。


暗闇にそびえ立つ鉄塊の影が、ろうそくの消えかかった炎に揺れて、彼らの首元に這い上がってくる。

『昇進祝い』という美しい名目で飾られた食卓の上で、彼らはただ、だらしなく溶けかけた特上寿司を互いの口に運び合っていた。

すべてを、親父の大嘘という名の底なし沼に沈めたまま。


本当のことを言ったら殺す。この家族が終わる。

その言葉にできない恐怖に背中を焼かれながら、全員が静かに、冷酷な笑みを深く交わし合っていた。


じわりと、さらに室温が上がっていく。

ぬるいお茶を飲み干した零二の耳に、エアコンが切れたリビングの、不気味なほどの無音がどこまでも重く響いていた。


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