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本当のこと(嫌味の核心)をストレートに口にすれば、親父の「有能な大黒柱」という虚飾のメッキが剥がれ落ち、お袋の「都合のいい借金延命システム」が崩壊し、美咲の「有能な泥棒」というプライドが瓦解する。
真実とは、この山崎家という劇場においては、全員を即死させる猛毒に他ならないのだ。
だからこそ、全員が嘘を「事実」として歓迎し、それをエサに、より洗練された『感謝の皮肉』を相手の喉元に突き立て合う。
「お父さんが稼いできてくれるお陰で、私たちは何も心配せずに、この素晴らしいお寿司を喉に通せる」
そうお袋が微笑むとき、その言葉の裏には「無職のくせにどこからその寿司代を絞り出したの?」という、骨まで削るような嫌味が完璧に機能している。
「でもさ」
蓮は少し声を潜め、テーブルに身を乗り出してきた。
「これでお前、大勝利じゃん。親父さん昇進したんなら、予備校の学費なんか一瞬で払ってもらえるだろ。今週中だっけ? 除籍されるの。すぐに頼めよ」
「もちろん。今夜、最高に丁寧にお願いするつもりだよ」
零二はポケットの奥にある『除籍処分予告書』の乾いた感触を、指先で愛おしむように撫でた。
「あの頼もしすぎる親父のことだからね。俺の教育への投資を渋るわけがない。社運を懸けた大仕事が決まったその日に、息子の学費未納で除籍なんて、そんな『エリートにふさわしくない汚点』を親父自身が許すはずがないからね。今夜が本当に楽しみだよ」
「……お前、マジで良い性格してるわ」
蓮は肩をすくめ、残りのポテトを一気に口に放り込んだ。
「まぁ、電気がつかなくても高級寿司が食えるなら勝ち組か。ウケる。お前んち、やっぱり住む世界が違うわ」
「そうね。本当に住む世界が違うわ」
零二は、蓮の放った「住む世界が違う」というお決まりの世間話を、そのまま口の中でなぞった。
マックの店内には、流行りのポップソングが無機質に響き渡っている。
他人の噂話、宿題の愚痴、週末の予定。そんな、ぬるくて軽い外界の空気が、今の零二にはひどく退屈で、味の薄いスープのように感じられた。
スマホの画面ロックが消え、鏡のような黒い液晶に、零二自身の歪んだ笑みが映り込んでいた。
今夜、あの生温い暗闇の食卓で、親父はどんな顔をして、なけなしの小銭を叩いて買った寿司を差し出すのだろう。
お袋は、美咲は、それをどんな言葉で美味しくいただくのだろう。
早くあの、息の詰まるほど美しい『嫌味のダンス』の舞台へ戻りたくて、零二は充電器をコンセントから勢いよく引き抜いた。
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