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火曜日の、午後五時半。
マクドナルドの店内は、これ以上ないほど冷徹な冷房で満たされていた。
ガラス一枚を隔てた外のアスファルト熱が嘘のように、プラスチックの椅子に座る零二の肌を寒気がかすめていく。
テーブルのコンセントに繋がれたスマホは、すでに九八パーセントまで充電を回復していた。
その青白い光を放つ画面を、正面に座る蓮がのぞき込み、ポテトを口に運ぶ手を完全に止めていた。
「……なぁ、これ、マジ?」
蓮の顔は、引きつった笑いで固まっていた。
その目は、零二のスマホに表示された『山崎家ファミリー(4)』のトーク履歴を穴が空くほど見つめている。
「マジだけど」
零二は、氷のすっかり溶けたコーラをストローで静かにかき回した。
「何だよこれ。ホラー映画の台本かよ。お前の親父さん、昇進したんだろ? なんで電気がつかないキャンドルナイトの家で、高級寿司の出前頼んでんだよ。普通、何かの手違いで止められたにしても、真っ先に電気代払って復旧させるだろ」
蓮の疑問は、外の世界における『あまりにも真っ当な常識』だった。
電気が止まれば、すぐに支払って復旧させる。生活に不便があれば、まずそれを取り除く。そんな、小学生でもわかる当たり前のルールが、このマックの平穏な空間を支配している。
零二は小さく息を吐き出し、極上の喜劇を解説するように微笑んだ。
「普通じゃないんだよ、うちの親父は。エコライフを推奨する知的でプレミアムな大黒柱だからね。口座引き落としの手違いで一時的に止まったのを、これ幸いと贅沢な演出に変換して、家族に高級寿司を振る舞うんだよ。素晴らしいバイタリティだと思わないか?」
蓮はポテトを一本、つまみ損ねてトレイに落とした。
「いや、思わねえよ。意味がわからなすぎる。お母さんの返信も何なんだよ。『眩しいお寿司が並ぶのね、誇らしいわ』って……電気が止まったままなんだぞ? お前の妹も、将来の投資って、なんの投資だよ。普通に『お父さん、それより早く電気つけてよ』って言えよ」
「言わないよ。それを言ったら、ゲームが面白くなくなるだろ」
「ゲームって……お前、自分の家のことだろ」
蓮は本気で不気味なものを見るような目で、零二の顔を凝視した。
この男には一生理解できない。
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