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火曜日の、午後五時。
傾きかけた太陽が、駅前の雑居ビルの隙間から執拗な光を投げかけている。
アスファルトが一日中蓄えた熱気が、靴底を通じてじわじわと体力を奪っていくような不快な夕暮れ。
予備校の自習室をサボり、涼しい図書館の学習スペースで閉館ギリギリまで時間を潰した零二は、生ぬるい風の吹くロータリーの隅に立っていた。
ポケットの中で、スマホが細かく二回震えた。
液晶を点灯させると、緑色のメッセージアプリに『山崎家ファミリー(4)』の通知が浮かんでいる。
昨夜、美咲が親父の部屋へと忍び込み、その「大黒柱としてのプライド」を一番可愛い顔で脅迫しに行ってから、丸一日。
ついに、その成果が家族グループLINEという名の舞台へと投下されたのだ。
最初にメッセージを書き込んだのは、主役である親父だった。
『みんな、朗報だ。かねてより進めていた大口のプロジェクトが、先ほど正式に決まった。これに伴い、俺の昇進も内定した。今夜は我が家の未来を祝して、ささやかだが祝杯を挙げよう。夕食には高級寿司の出前を取るから、みんな楽しみに待っていてくれ』
高級寿司。昇進。大口のプロジェクト。
スマートな文字の並びを見つめながら、零二は喉の奥からせり上がってくる笑いをこらえきれなかった。
(やってくれたな、美咲)
財布の中に千円札しか入っていない「リストラ無職」の親父。
そんな男が、美咲から「五万円が今すぐ必要。エリートのお父さんなら一瞬だよね」と愛らしく脅迫され、自分の「有能な父親」という唯一無二のメッキを守るために、ついに最後のカードを切ったのだ。
どこからその金を工面したのかは知らない。
利用停止寸前のキャッシングカードを無理やり捩じ込んだのか、それともお袋のように、新たなヤミ金に手を出したのか。
どちらにせよ、親父は自分の首をさらに深く絞めることで、今夜の「高級寿司」という虚飾の鎧を買い調えたのだ。
すぐに、お袋からのレスポンスがあった。
『まあ、本当におめでとう。お父さんなら絶対にやってくれると信じていたわ。この薄暗いキャンドルナイトの食卓に、最高に眩しいお寿司が並ぶのね。あなたのその揺るぎない有能さ、本当に誇らしいわ』
誇らしい、という言葉の後ろに、お袋にしては珍しく薔薇の絵文字が添えられている。
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