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エアコンの送風音だけが、零二の耳元で妙に大きく響く。
「マークって、どういうこと」
「なんか、防犯カメラの映像がバイトの共有LINEに回ってきたらしくて。顔、めっちゃお前の妹に似てたって。まだ現行犯で捕まってないから警察には行ってないらしいけど、店長が『次に見つけたら即、警察と親に通報する』って息巻いてるらしい。マジで人違いならいいけど、一応、耳に入れといてやった方がいいと思ってさ」
蓮は、親切のつもりなのか、それとも他人の家庭の不穏な噂を楽しんでいるのか、覗き込むような目で零二の顔を観察している。
零二は、口元に完璧に張り付いた「エリートの長男」としての微笑を、一ミリも崩さなかった。
「まさか。あいつ、お父さん似で無駄にプライドだけは高いからさ。そんな安いこと、するわけないよ。人違いでしょ」
「だよな。お前んち、エリートだし、お小遣いだって普通に貰ってるもんな。いや、余計なこと言って悪かったわ。忘れてくれ」
蓮は納得したように笑い、残ったポテトを口に放り込んだ。
忘れるわけがない。
美咲のクローゼットに眠る、大量の「白い値札のついたコレクション」。
あれが、ただの『有能さの証明』という子供じみた自己満足から、物理的な『逮捕』というリアルな最悪の現実へと、秒読みを開始したのだ。
ポケットの中で、満充電になったスマホが、じわりと熱を帯びているように感じられた。
零二は、席を立ちながら、歪んだ喜びが喉元までせり上がってくるのを抑えきれなかった。
すべてを知っている。
お互いのコンセント泥棒も、お袋の借金も、親父の鳩の餌やりも、そして美咲の首を絞めるロフトの網も。
さあ、このカードはどう動く。
家路につく零二の足取りは、いつになく軽やかだった。
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