表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却勇者と欠けた世界  作者: ナイトさん
第一章存在しないはずの勇者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/16

第7話「名前のない涙」

夜。

空気が、張り詰めていた。

誰も眠れていない。

でも、誰も話さない。

セラは一人、少し離れた場所に座っていた。

焚き火の光が届かない場所。

静かで、暗い場所。

胸が苦しい。

理由は分からない。

でも、はっきりと分かる。

(何か、大事なものを失っている)

手を胸に当てる。

鼓動が速い。

「……どうして」

小さく呟く。

どうしてこんなに苦しいのか。

どうして涙が出そうなのか。

分からない。

でも――

「……会いたい」

その言葉が、自然に出た。

誰に?

分からない。

でも確かに“いる”。

セラは目を閉じる。

すると、浮かぶ。

光景。

誰かが笑っている。

優しい声。

でも、顔が見えない。

(だめ……思い出せない)

頭が痛む。

それでも、必死に手を伸ばす。

(あと少しで……)

その瞬間。

“何かに弾かれる”。

「っ……!」

セラは目を開ける。

息が乱れる。

(今の……なに?)

明らかにおかしい。

“思い出そうとした瞬間に、止められた”。

震える手を見つめる。

(誰かが……)

その時。

「セラ」

声がした。

振り返る。

ノアが立っていた。

静かに、こちらを見ている。

セラの心臓が強く鳴る。

(この人だ)

理由は分からない。

でも、分かる。

「……あなた、ですよね」

ノアは答えない。

セラは立ち上がる。

一歩、近づく。

「私たちの記憶……」

声が震える。

「何かしましたよね」

沈黙。

ノアは否定しない。

それだけで、十分だった。

セラの目に涙が溜まる。

「どうしてですか」

問い。

責めるような声じゃない。

ただ――

“分かりたい”だけ。

ノアは少しだけ目を伏せる。

そして、静かに言う。

「……忘れた方がいい」

その一言で。

何かが、完全に壊れる。

「嫌です」

即答だった。

ノアの目がわずかに揺れる。

セラは続ける。

「忘れたくないです」

涙がこぼれる。

「誰かを、大事に思ってたのに」

「その人のことを忘れるなんて……」

声が詰まる。

「そんなの、優しくない」

その言葉に、ノアは何も返せない。

沈黙。

セラは震えながら言う。

「怖いんです」

「思い出せないのに……」

「こんなに悲しいのが」

その一言が、すべてだった。

理由のない涙。

記憶のない喪失。

それが、どれだけ残酷か。

ノアは目を閉じる。

何も言えない。

セラは一歩下がる。

「……教えてください」

最後の願い。

「その人の名前」

静寂。

長い沈黙。

ノアの唇が、わずかに動く。

「……」

だが――

言わない。

言えない。

セラの涙が落ちる。

「……どうして」

答えは来ない。

ただ一つだけ、分かる。

この人は――

“全部知ってるのに、言わない”

それが一番、残酷だった。

セラはその場に崩れ落ちる。

声を押し殺して泣く。

名前も知らない誰かのために。

ノアは動けない。

ただ立っている。

何もできない。

それが、自分の選んだ結果だから。

夜は静かに続く。

誰も救われないまま。

高評価コメントお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ