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忘却勇者と欠けた世界  作者: ナイトさん
第一章存在しないはずの勇者

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第5話「消した理由」

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夜。

全員が眠っている。

静かな時間。

ノアだけが起きていた。

焚き火の火が、ゆっくりと揺れている。

目を閉じる。

すると、すぐに浮かぶ。

“あの日の光景”。

血の匂い。

折れた剣。

そして――

倒れる背中。

(……やめろ)

ノアは目を開ける。

呼吸が少し乱れている。

忘れることはできない。

どれだけ時間が経っても。

「……グレン」

小さく、名前を呼ぶ。

それだけで胸が締め付けられる。

(本当は、お前だった)

勇者に選ばれるはずだったのは。

あの場所に立つはずだったのは。

全部、グレンだった。

ノアは拳を握る。

(俺じゃない)

なのに、自分が立っていた。

魔王の前に。

仲間の前に。

“勇者として”。

目を閉じる。

あの瞬間を思い出す。

魔王との戦い。

限界を超えた状況。

そして――

知ってしまった。

“選定の真実”。

誰が選ばれるはずだったのか。

なぜ自分がそこにいるのか。

全部。

(ああ、そうか)

その時、理解した。

(俺は、間違いだ)

存在そのものが。

でも、もう遅かった。

止まれなかった。

剣を振るった。

魔王を倒した。

世界は救われた。

でも――

(何も救われてない)

ノアは目を開ける。

焚き火の火が、少し弱くなっている。

視線を横に向ける。

カイが眠っている。

少しだけ眉を寄せている。

夢を見ているのだろう。

ノアは分かっている。

(思い出しかけてる)

完全には消せなかった。

“あいつ”の存在は。

リシアも。

セラも。

ゼノも。

みんな、どこかで感じている。

“足りない何か”。

ノアは小さく息を吐く。

(それでいい)

完全に消える必要はない。

ただ――

「思い出さなければいい」

それだけでいい。

ノアは立ち上がる。

少し離れた場所へ歩く。

そして、手をかざす。

淡い光。

魔道具。

記憶に干渉するもの。

それを見つめながら、呟く。

「これでいい」

誰に言うでもない言葉。

でも、その声はわずかに揺れていた。

「……これで」

少しだけ、言葉が詰まる。

それでも続ける。

「俺がいなくても、進める」

その言葉に、迷いはない。

ただ一つだけ。

ほんの一つだけ。

「……忘れろ」

その言葉だけが、少しだけ弱かった。

風が吹く。

焚き火の火が揺れる。

そして、静かに夜が更けていく。

誰も知らないまま。

“勇者が自分を消した理由”を。

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