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忘却勇者と欠けた世界  作者: ナイトさん
第一章存在しないはずの勇者

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3/16

第3話「欠けている感覚」

朝は、何事もなかったように始まる。

鳥が鳴く。

風が吹く。

いつも通りの世界。

でも――

「カイ、顔色が悪いですよ」

リシアの声で、現実に引き戻される。

カイは軽く手を振る。

「大丈夫だ」

嘘だった。

(寝たはずなのに、疲れてる)

夢のせいだと分かっている。

でもそれだけじゃない。

セラが近づいてくる。

「無理はしないでくださいね」

そう言って、そっと手をかざす。

淡い光。

体の重さが少しだけ消える。

「……ありがと」

カイは短く礼を言う。

その瞬間、ふと違和感が走る。

(こんな距離、だったか?)

セラは優しい。

それは分かっている。

でも――

(もっと近かった気がする)

理由は分からない。

ただ、距離が“ズレている”。

その時、ゼノの声が飛ぶ。

「行くぞ」

視線を上げると、すでに歩き出している。

いつも通り。

何も変わらない。

でも、カイは気づく。

(こいつも、少し違う)

ゼノの剣は変わっていない。

完璧で、無駄がない。

でもどこか――

(余裕がない)

ほんのわずかなズレ。

普通なら気づかない。

でも今のカイには分かる。

リシアも同じだった。

歩きながら、何度もカイの方を見る。

何か言いたそうにしている。

でも言わない。

やがてリシアが口を開く。

「……変なこと、聞いてもいいですか」

カイは頷く。

「私たちって、本当に五人でしたか?」

その一言で、空気が凍る。

セラが小さく息を呑む。

ゼノは足を止める。

カイはゆっくりと答える。

「……それ、俺も思ってた」

沈黙。

セラが震える声で言う。

「私も……です」

「人数は分かるんです。でも……」

「何か、大事なものが抜けてる気がして」

ゼノが舌打ちする。

「くだらない」

だが、その声にはわずかな苛立ちが混じっている。

「気のせいだ」

そう言いながらも、視線は落ちている。

カイはそれを見逃さない。

(こいつも気づいてる)

そして、最後に一人。

ノア。

ノアは一歩前を歩いている。

振り返らない。

カイは言う。

「ノア」

足が止まる。

でも振り返らない。

「なんだ」

短い返事。

カイは続ける。

「俺たち、何か忘れてるよな」

沈黙。

リシアも、セラも、ゼノも。

全員がノアを見る。

ノアだけが、動かない。

やがて、ゆっくりと振り返る。

その表情は、いつもと変わらない。

「……忘れてない」

即答だった。

でも――

「そう思いたいだけだ」

その一言が、すべてを壊す。

カイの心臓が強く跳ねる。

(やっぱり知ってる)

ノアはそれ以上何も言わない。

再び前を向いて歩き出す。

誰も追えない。

その背中が、妙に遠く感じる。

カイは小さく呟く。

「……夢じゃない」

もう確信していた。

これは“気のせい”じゃない。

“何かが意図的に消されている”

そして、その中心にいるのは――

ノア。

風が吹く。

でもそれは、ただの風じゃない。

“何かを隠すための静けさ”だった。

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