外伝「セラ過去編」 「届かなかった祈り」
雨が降っていた。
冷たい雨。
止む気配はない。
「セラ!」
呼ばれる。
小さな村。
崩れた家。
セラは走る。
「こっちです!」
扉を開ける。
そこにいたのは――
倒れている男。
血。
「……っ」
言葉を失う。
母親が縋りつく。
「お願い……助けて……」
震える声。
セラはすぐに膝をつく。
「大丈夫です」
言い聞かせるように言う。
手をかざす。
光が灯る。
「必ず、助けます」
魔法を流し込む。
治癒。
傷が、少しずつ閉じる。
でも――
(足りない)
分かる。
力が、足りない。
もっと、深いところ。
届かない。
「……っ、お願い……!」
必死に力を込める。
光が強くなる。
でも――
止まる。
それ以上、進まない。
「なんで……」
震える。
(あと少しなのに)
(届けば……)
男の呼吸が、弱くなる。
「……セラ……」
小さな声。
セラの手を掴む。
「ありがとう……」
その言葉。
そして――
力が抜ける。
止まる。
静寂。
「……え」
理解できない。
「……うそ」
何度も魔法をかける。
光は出る。
でも、戻らない。
「なんで……」
声が震える。
母親の泣き声が響く。
セラの手が、止まる。
(届かなかった)
その事実だけが残る。
雨の音が、大きくなる。
その日。
セラは初めて知った。
“救えない命がある”ことを。
――それから。
セラは変わった。
「もっと強くなりたい」
誰にでも言う。
「誰も死なせたくない」
その言葉に、迷いはない。
でも、本当は分かっている。
(全部は救えない)
それでも。
それでも――
「それでも、やるしかない」
拳を握る。
届かなかったあの日の手を思い出す。
あの感触。
あの温もり。
二度と離さないために。
――そして現在。
「必ず助けます」
グレンに向けた言葉。
それは、ただの優しさじゃない。
誓いだった。
過去に負けないための。




