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忘却勇者と欠けた世界  作者: ナイトさん
第一章存在しないはずの勇者

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外伝「セラ過去編」 「届かなかった祈り」

雨が降っていた。

冷たい雨。

止む気配はない。

「セラ!」

呼ばれる。

小さな村。

崩れた家。

セラは走る。

「こっちです!」

扉を開ける。

そこにいたのは――

倒れている男。

血。

「……っ」

言葉を失う。

母親が縋りつく。

「お願い……助けて……」

震える声。

セラはすぐに膝をつく。

「大丈夫です」

言い聞かせるように言う。

手をかざす。

光が灯る。

「必ず、助けます」

魔法を流し込む。

治癒。

傷が、少しずつ閉じる。

でも――

(足りない)

分かる。

力が、足りない。

もっと、深いところ。

届かない。

「……っ、お願い……!」

必死に力を込める。

光が強くなる。

でも――

止まる。

それ以上、進まない。

「なんで……」

震える。

(あと少しなのに)

(届けば……)

男の呼吸が、弱くなる。

「……セラ……」

小さな声。

セラの手を掴む。

「ありがとう……」

その言葉。

そして――

力が抜ける。

止まる。

静寂。

「……え」

理解できない。

「……うそ」

何度も魔法をかける。

光は出る。

でも、戻らない。

「なんで……」

声が震える。

母親の泣き声が響く。

セラの手が、止まる。

(届かなかった)

その事実だけが残る。

雨の音が、大きくなる。

その日。

セラは初めて知った。

“救えない命がある”ことを。

――それから。

セラは変わった。

「もっと強くなりたい」

誰にでも言う。

「誰も死なせたくない」

その言葉に、迷いはない。

でも、本当は分かっている。

(全部は救えない)

それでも。

それでも――

「それでも、やるしかない」

拳を握る。

届かなかったあの日の手を思い出す。

あの感触。

あの温もり。

二度と離さないために。

――そして現在。

「必ず助けます」

グレンに向けた言葉。

それは、ただの優しさじゃない。

誓いだった。

過去に負けないための。

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