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忘却勇者と欠けた世界  作者: ナイトさん
第一章存在しないはずの勇者

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外伝「リシア過去編」「言えなかった言葉」

「言えなかった言葉」

――まだ、村にいた頃。

「遅い!」

リシアの声が響く。

「カイ、ちゃんと狙いなさいよ!」

森の中。

カイが弓を構えている。

「分かってるって!」

放たれる矢。

だが――

外れる。

「ほら!」

リシアがため息をつく。

「また外した」

カイが舌打ちする。

「うるせぇな」

「風が――」

「言い訳」

即答。

カイが睨む。

「お前なぁ……」

リシアは腕を組む。

「ちゃんと見なさい」

一歩前に出る。

カイの隣に立つ。

「風は右から」

「だから、少しだけずらす」

手を添える。

弓の角度を、少しだけ動かす。

距離が近い。

カイが少しだけ固まる。

「……おい」

「集中」

短く言う。

カイは息を整える。

そして――

放つ。

矢は真っ直ぐ飛ぶ。

命中。

「……おお」

カイが目を見開く。

リシアは小さく笑う。

「でしょ」

その顔は、少しだけ誇らしげだった。

こういう時間が、当たり前だった。

隣にいるのが、当たり前。

言い合って、でも一緒にいるのが普通。

――だから。

その日のことは、突然だった。

「俺、出る」

カイの一言。

リシアは固まる。

「……は?」

「村、出る」

あまりにも簡単に言う。

「強くなる」

その言葉に、迷いはない。

リシアの胸がざわつく。

「なんで急に」

カイは目を逸らす。

「前から考えてた」

「ここじゃ、足りねぇ」

その言葉が、刺さる。

「……そう」

短く返す。

でも、内心は違う。

(やめて)

そう言いたかった。

でも、言えない。

「危ないわよ」

代わりに出たのは、その言葉。

カイは笑う。

「知ってる」

軽い。

それが、余計に腹立たしい。

「死ぬかもしれないのよ」

声が強くなる。

カイは少しだけ黙る。

でも――

「それでも行く」

変わらない。

リシアの中で、何かが崩れる。

「……バカじゃないの」

吐き出す。

「なんでわざわざ危険な方に行くのよ」

「ここにいればいいでしょ」

声が震える。

「なんで――」

言葉が詰まる。

本当は違う。

(行かないで)

(置いていかないで)

でも、それは言えない。

カイは静かに言う。

「お前は来るなよ」

その一言。

完全に、壊れる。

「は?」

低い声。

「なんでよ」

カイは答える。

「危ねぇからだ」

「俺一人でいい」

それが優しさだってことは、分かる。

でも――

「勝手に決めないで」

怒りが溢れる。

「私だって戦える!」

「足手まといじゃない!」

カイは黙る。

否定しない。

でも、変えない。

「……それでもだ」

その一言で、終わりだった。

リシアの目に涙が浮かぶ。

でも、見せない。

「……最低」

小さく言う。

カイは何も言わない。

沈黙。

リシアは背を向ける。

「もういい」

止まらない。

止めてくれない。

それが、余計に苦しい。

「勝手に行けば」

強がり。

でも、それしか言えない。

カイは最後まで何も言わなかった。

それが――

一番、嫌だった。

――そして現在。

「今度は勝手にいかせない」

あの時、言えなかった言葉。

全部込めて。

リシアは、カイの隣に立つ。

もう、離れないために。

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