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忘却勇者と欠けた世界  作者: ナイトさん
第一章存在しないはずの勇者

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外伝「ゼノ過去編」「選ばれなかった剣」

静かな道場。

音は、剣が空を切る音だけ。

ヒュン。

ヒュン。

無駄のない動き。

美しい軌道。

「……いいぞ、ゼノ」

師の声が響く。

「その剣は、もう一流だ」

ゼノは止まらない。

ただ振る。

何度も。

何度も。

汗が落ちる。

(まだだ)

満足はしない。

完璧じゃない。

「……そこまでだ」

声がかかる。

ゼノは剣を止める。

静かに息を吐く。

「……ありがとうございました」

礼をする。

師が言う。

「何を目指している」

問い。

ゼノは迷わない。

「最強です」

即答。

「誰にも負けない剣」

「それだけです」

師は少しだけ目を細める。

「では問おう」

「お前は“選ばれる”と思うか?」

その言葉で、空気が変わる。

ゼノは一瞬だけ黙る。

「……分かりません」

正直な答え。

師は頷く。

「ならば言っておく」

静かに。

「選ばれる者と、選ばれない者は違う」

「どれだけ努力してもな」

ゼノの眉がわずかに動く。

「……才能、ですか」

師は否定しない。

「資質だ」

その言葉が、胸に残る。

(関係ない)

ゼノはそう思う。

努力で超えられないものはない。

そう信じている。

――そして、数日後。

森の奥。

ゼノは、一人の男と向き合っていた。

グレン。

初めて見る存在。

だが、一目で分かる。

(こいつは強い)

構えた瞬間。

空気が違う。

「行くぞ」

踏み込む。

完璧な一撃。

だが――

受けられる。

崩される。

押し返される。

「……っ!」

後ろに下がる。

理解する。

(上だ)

技術じゃない。

何かが違う。

グレンは言う。

「いい剣だな」

素直な言葉。

でも――

それが気に入らない。

「……だが」

ゼノが言う。

「勝てない」

事実。

グレンは否定しない。

「今はな」

軽く言う。

その余裕が、刺さる。

ゼノの中で、何かが揺れる。

(なんだ、これは)

努力してきた。

積み上げてきた。

完璧を目指してきた。

それでも届かない。

その理由が――

「……選ばれたからか」

小さく呟く。

グレンは少しだけ首を傾げる。

「どうだろうな」

曖昧な答え。

だが、ゼノには分かる。

(違う)

選ばれたから強いんじゃない。

“強いから選ばれた”。

その事実。

そして同時に。

(俺は選ばれない)

確信してしまう。

胸の奥に、静かな怒りが生まれる。

「……気に入らないな」

ゼノは剣を収める。

「だが」

視線を向ける。

「認める」

その言葉に嘘はない。

そして、もう一人を見る。

ノア。

(こいつは……)

戦いを思い出す。

荒い。

理屈がない。

なのに強い。

(一番、気に入らない)

努力の形じゃない。

理解できない強さ。

「……同行させてもらう」

口に出る。

理由は一つ。

(確かめる)

選ばれた者と。

選ばれなかった者の差を。

自分の剣が、どこまで通じるのかを。

それだけだった。

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