外伝「ゼノ過去編」「選ばれなかった剣」
静かな道場。
音は、剣が空を切る音だけ。
ヒュン。
ヒュン。
無駄のない動き。
美しい軌道。
「……いいぞ、ゼノ」
師の声が響く。
「その剣は、もう一流だ」
ゼノは止まらない。
ただ振る。
何度も。
何度も。
汗が落ちる。
(まだだ)
満足はしない。
完璧じゃない。
「……そこまでだ」
声がかかる。
ゼノは剣を止める。
静かに息を吐く。
「……ありがとうございました」
礼をする。
師が言う。
「何を目指している」
問い。
ゼノは迷わない。
「最強です」
即答。
「誰にも負けない剣」
「それだけです」
師は少しだけ目を細める。
「では問おう」
「お前は“選ばれる”と思うか?」
その言葉で、空気が変わる。
ゼノは一瞬だけ黙る。
「……分かりません」
正直な答え。
師は頷く。
「ならば言っておく」
静かに。
「選ばれる者と、選ばれない者は違う」
「どれだけ努力してもな」
ゼノの眉がわずかに動く。
「……才能、ですか」
師は否定しない。
「資質だ」
その言葉が、胸に残る。
(関係ない)
ゼノはそう思う。
努力で超えられないものはない。
そう信じている。
――そして、数日後。
森の奥。
ゼノは、一人の男と向き合っていた。
グレン。
初めて見る存在。
だが、一目で分かる。
(こいつは強い)
構えた瞬間。
空気が違う。
「行くぞ」
踏み込む。
完璧な一撃。
だが――
受けられる。
崩される。
押し返される。
「……っ!」
後ろに下がる。
理解する。
(上だ)
技術じゃない。
何かが違う。
グレンは言う。
「いい剣だな」
素直な言葉。
でも――
それが気に入らない。
「……だが」
ゼノが言う。
「勝てない」
事実。
グレンは否定しない。
「今はな」
軽く言う。
その余裕が、刺さる。
ゼノの中で、何かが揺れる。
(なんだ、これは)
努力してきた。
積み上げてきた。
完璧を目指してきた。
それでも届かない。
その理由が――
「……選ばれたからか」
小さく呟く。
グレンは少しだけ首を傾げる。
「どうだろうな」
曖昧な答え。
だが、ゼノには分かる。
(違う)
選ばれたから強いんじゃない。
“強いから選ばれた”。
その事実。
そして同時に。
(俺は選ばれない)
確信してしまう。
胸の奥に、静かな怒りが生まれる。
「……気に入らないな」
ゼノは剣を収める。
「だが」
視線を向ける。
「認める」
その言葉に嘘はない。
そして、もう一人を見る。
ノア。
(こいつは……)
戦いを思い出す。
荒い。
理屈がない。
なのに強い。
(一番、気に入らない)
努力の形じゃない。
理解できない強さ。
「……同行させてもらう」
口に出る。
理由は一つ。
(確かめる)
選ばれた者と。
選ばれなかった者の差を。
自分の剣が、どこまで通じるのかを。
それだけだった。




