第12.5話「六人になる日」
選定者が去ったあと。
空気は、まだ張り詰めていた。
「……勇者、か」
カイが呟く。
グレンは軽く笑う。
「実感ねぇな」
その時。
「面白い話をしているな」
振り返る。
一人の剣士。
無駄のない立ち姿。
「ゼノだ」
視線はグレンに向けられている。
「選ばれたってだけで強いとは限らない」
「試させてもらっていいか?」
グレンはすぐに前に出る。
「いいぜ」
戦い。
剣と剣。
綺麗な剣と、まっすぐな剣。
結果は――グレンの勝ち。
「……強いな」
ゼノは素直に言う。
だが、その視線がノアに向く。
「そっちはどうだ?」
カイが苛立つ。
「やめとけ」
ノアは一歩出る。
「いいぞ」
戦いは一瞬。
荒いが強いノアの勝利。
ゼノは小さく笑う。
「……なるほどな」
「同行させてもらう」
その時。
「……ほんと、変わってないわね」
女の声。
カイの動きが止まる。
振り返る。
「……リシア」
そこにいたのは、魔女。
腕を組み、睨んでいる。
「何も言わずに出ていって」
一歩、近づく。
「勝手に勇者様の旅?」
怒っている。
でも――
少しだけ、安心している。
カイは目を逸らす。
「……悪かった」
珍しく、素直だった。
リシアは一瞬だけ言葉を失う。
でもすぐに顔を戻す。
「……ほんとよ」
小さく呟く。
その声は、少しだけ弱かった。
ノアは気づく。
(ただ怒ってるわけじゃないな)
リシアが言う。
「ついていく」
カイが顔を上げる。
「は?」
リシアは迷わない。
「今度は勝手にいかせない」
その言葉に、過去が滲む。
カイは少し黙る。
思い出す。
止められた日。
言い合いになった日。
それでも、出ていった自分。
「……危ねぇぞ」
絞り出すように言う。
リシアは鼻で笑う。
「知ってるわよ」
「だから来たの」
強い目。
カイはため息をつく。
「……好きにしろ」
それが許可だった。
グレンが笑う。
「いいねぇ」
「賑やかになってきた」
その時。
「……あなたが勇者ですか」
最後の一人。
セラ。
静かに頭を下げる。
グレンの傷を見る。
「治します」
光が灯る。
傷が消える。
カイが驚く。
「すげぇな……」
セラは微笑む。
「少しだけですが」
そしてグレンを見る。
「あなたは……人を救う人ですね」
その言葉で、空気が変わる。
グレンは少しだけ照れる。
「どうだかな」
でも、否定しない。
六人が並ぶ。
勇者。
仲間。
完成する。
ノアはその光景を見る。
中心にいるグレン。
周りに集まる仲間。
(……やっぱり)
「似合ってるな」
小さく呟く。
誰にも聞こえない声。
そして同時に思う。
(俺じゃない)
はっきりと。
この場所は――
最初から、グレンのものだった。
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